明 細 書
特性値同定方法及び装置 技術分野
本発明は、 特性値同定方法及び装置に関し、 特に製品を構成する部品の特性値 同定方法及び装置に関するものである。 背景技術
従来の特性値同定方法及び装置としては、以下の二通りのものが知られている。 まず、 特願平 6- 140081号、 同 8-18946号、 同 9-287161号等に開示されたもの がある。 これらの従来技術においては、 被試験物 (部品) の振動試験により得ら れた周波数応答関数(FRF)の測定データから、 固有振動数、 固有モード、 及びモー ド減衰比を同定するという手段を採用している。
次に、 特性行列同定法と呼ばれるものがある。 この方法は、 被試験物 (部品) の振動試験により得られた加振力と応答の時刻暦測定データから、 力学系におけ る 「力のつり合い」 則に基づいて定式化された運動方程式の係数である 3種類の 特性行列、 すなわち質量行列、 減衰行列、 剛性行列を同定するという手段を採用 している。
一般的に、 機械には、 何らかの形で運動エネルギーを生成する動力源があり、 この動力を伝達する機構■動力を利用して仕事を行なう機構など、 多くの部品で 構成されている。 また、 これらの機械を構成する部品には、 電気系 '機械系 ' 流 体系等の物理単位系を根拠とする部品が有機的に結合されている。
このように多くの理論的背景が異なる多くの部品を再現するモデルは、 個々の 部品や機構の汎用性の高さにも関わらず、互いの理論的な関連性を無視して、各々 がそれらを包含する物理的単位系やそれらの用途に従って個別にモデル化し同定 しているのが実状である。 このため、 機械系特有の手法に基づく上記の二通りの 従来技術は、 機械系の振動という特定の現象にしか適用できないという問題があ つた。
また、 これらの従来技術では、 エネルギーを規定する 「量 (位差量) J と 「強さ
(流動量) J という二次元量に対して 「強さ」 という一次元でしかモデル (部品) の同定を行っていない。 すなわち、 エネルギーを構成するこれらの 2種類の量の 各々を支配する法則の両方を当て嵌めていないため、 速度や加速度の連続性が同 定されたモデル上に表現されておらず、 部品同士の結合が困難であるという問題 力 sあった。
さらに、 従来技術では、 モデルの構造すなわちモデルを構成する各特性の位置 関係を示しているだけで、 各特性の機能を表現していないため、 同定により、 各 特性が複合して発現する構造上の現象、 例えば固有振動数と固有モード形状、 あ るいは構造全体の特性行列を明らかにできるだけであり、 対象物の機能を支配す る各特性値を直接明らかにすることはできなかった。
従って本発明は、 個々の部品を組み合わせた製品と同じように、 異なる物理単 位系に跨って各モデルを展開して全体モデルに統合できる特性値同定方法及び装 置を提供することを目的とする。 発明の開示
本発明において、 製品,部品 (以下、 単に部品と称する。) に関する機能モデル の内部特性値を同定する基本的な手順は、 図 1に示すようになる。 この図は、 機 能モデルが定常特性値と過渡特性値とを包含したモデル化手法であることを生か した同定手法を示している。
まず、 手順 1でモデル化された機能モデルの内部には、 元々定常特性値と過渡 特性値が含まれている。 従って、 請求の範囲 1 に係る本発明における機能モデル の同定は、 これらの内部特性値を定常同定手順 2 と過渡同定手順 3に分けて同定 する。 すなわち、 同定の基本手順としては、 定常特性値は過渡状態の干渉が無く、 過渡状態には定常特性値が干渉するので、 定常同定手順 2 の後に過渡同定手順 3 を実行する。
定常同定手順 2では、さらに請求の範囲 2〜5により以下の手順を含んでいる。 まず、 手順 21では、 部品の機能モデルから定常状態の機能 ·性能■特性を再現す る定常機能モデルを求める。 この定常機能モデルは、 過渡特性を除いた定常特性 のみを包含したモデルとなる。 手順 22では、 同定対象となる部品の定常試験を行
なって、 定常試験データを収集する。 手順 23では、 この試験データを使って定常 内部特性値を同定し、 手順 24により機能モデルに与える。
次に、 過渡同定手順 3は、 請求の範囲 6〜9により以下の手順を含んでいる。 ま ず、手順 31では、 同定対象となる部品の過渡試験モデルを作成して試験を行い、 過渡試験データを収集する。 手順 32では、 この試験データを使って機能モデルの 過渡内部特性値を同定する。 この過渡同定手順 3には、 手順 4に示す如く、 手順 24で同定した定常内部特性値を反映させる。
以下、 この手順に沿って、 機能モデルを同定するための試験モデルと同定手法 についてこれを簡単に説明できるモータを例にとって述べる。
まず、 各請求の範囲に共通な手順 1の機能モデルについて、 直流モータを例に とって以下に説明する。
<モータのモデル化〉
( 1 ) モータの基本機能
モータは、 電気工ネルギを入力し、 これを回転エネルギに変換して出力するこ とを基本機能とする。 このときのエネルギー変換は、 モータの電気系に電圧 VMと 電流 IMが加えられて回転系から角速度 ω Μと トルク TMが出力される。 また、 モー タ内部には損失特性 · 蓄積特性 ·側負荷が内部負荷として包含され、 これらがモ ータ固有の挙動と損失などを決定している。
直流モータの電気系と回転系の間には、 電流と トルクの比で表わすトルク係数 % T [Nm/A]と、角速度と誘起電圧の比で表わす速度係数 X ω [V/ (rad/sec) ]が知られ ている。 そこで、 これらの係数を基本機能にして入出力状態量を直接変換する理 想的なモータモデルは、 次式で表わすことができる。
ΙΜ 2Λ· a
'式 (1)
V 1 p
χω =—— ^ x lO"
ωΜ 2π a この式(1)は、 Pが電機子の極数、 aが電機子並列回路数、 Zが全導体数、 が 1極当たりの全磁束で、 これらはモータ構造で決まる特性である。 また、 磁束 φ は、 界磁に永久磁石を使用する他励式モータでは前者と同様に構造で決まり、 界
磁卷線を持つ自励式モータでは電気系の状態量に影響される。 この式(1)は、 直流 発電機にも適用できる直流回転機共通の基本式である。
式(1)の トルク係数; ^ と速度係数 χ ωは、 電流から トルク、 または角速度から 電圧に物理単位系変換を同じ式で行なう。 そこで、 この係数をここではモータ定 数と呼び、 ΜΜで表わす。 このモータ定数と内部負荷の関係は、 この係数を境に電 気系と回転系をモータの内部負荷と考えることができる。 このモータ定数 ΜΜの基 本機能と内部負荷の関係を組み合わせた、 モータモデルの基本形を図 2に示す。
この図 2は、 電気系の入出力状態量が電源に接続され、 機械系の入出力状態量 が外部の機械負荷と結合される。 また状態量の流れは、 下側が電源の電流 ΙΜを ΜΜ で変換して外部負荷を駆動する出力トルク τΜの流れとなる流動系を表わし、 上側 が外部負荷から受けた角速度 ω Μを ΜΜでモータの誘起電圧に変換して電源に返す 電圧 VMの流れとなる位差系を表わしている。
これにより、 機械系と電気系が、 位差量というエネルギーの強さと、 流動量と いうエネルギーの量で結合されたことになり、 力のつり合いと速度の連続性とい う二次元のエネルギー則を満たすことができる。
( 2 ) モータの機能モデル
モータモデルの電気回路図は、 図 3で表わされる。
同図の電気系は、 RMが巻線抵抗、 LMがインダクタンス、 Rcが巻線の絶縁抵抗で ある。 また、 回転系には、 JMの慣性モーメン ト、 DMの粘性抵抗、 及び TMFの摩擦ト ルクを持っている。 これらの関係を表わした機能モデルは図 4 ( 1)及び(2)で表わ される。 尚、 このような機能モデル自体については、 特開平 9— 91334号公報に既 に開示されている。
図 4 ( 1)は、 モータ定数 MMの右側が回転系内部負荷となり、左側が電気系内部負 荷となる。 このモデルは、 電機子に電流 IMを供給するブラシの電圧降下 EMBと回 転系の摩擦トルク TMFを側負荷と して持つ。 両者の影響を無視するときは、 TMF = 0 および EMB = 0 とすれば良い。 尚、 同図の xMと xLは内部状態量である。 また、 モ ータ定数 MMには、 トルク係数 χ τと速度係数ズ ωのバラツキを考慮して、 次の速度 補正係数 δ Μが追加されている。
Χ .. τ. ! '式 (2)
ΜΜ = χτ
のような図 4 ( 1)のモータの機能モデルの支配方程式は、 次式で表される,
この式(3)は、 1〜2行目が状態方程式、 2〜4行目が出力方程式になっている。 尚、 式(3)は、 図 4 (2)に示す以下の手順で導出することができる。
白丸は、 入力される状態量を加算して出力状態量とする。
黒丸は、 出力される状態量は入力する状態量に等しい。
四角で表わした特性は、 入力状態量との特性の積を出力状態量とする。 X印の付いた白丸は、 入力状態量又は入力信号の積を出力する。
一印の付いた白丸は、 状態量を負にする。
三角は、 入力される状態量の微分量を積分して出力状態量にする。
変数名が書かれた大きな白丸は、 機能モデル内部で生成される状態量を側 負荷と して表わしている。
( 3 ) モータ電源との結合
次に、 モータの電源となる電池についてモデル化する。 電池の回路図を図 5に 示し、 この機能モデルを図 6に示す。 図 6の電池は、 電圧 VB ·電流 IBが図 4 ( 1) で示すモータの電圧 VM■電流 IMに接続される。 また、 同図の特性は、 E。が電池の 誘起起電力、 REが電池の内部抵抗である。
図 5の電池の支配方程式は、 次式のようになる。
1
[ i 。 '式 (4)
1
次に、 モータモデルと電池モデルの結合は、 式(3)に式(4)を代入することによ り次式で与えられる。
式 (5)
この式(5)は、 1〜2行目が状態方程式、 3〜5行目が出力方程式を示している, 同式の抽象化された等価ァドミタンス Y。と電流源 I。は、 次式で表わされる。
1
式 (6)
/ = YF 式 (7)
このように本発明に係る特性値同定方法では、 部品に加わるエネルギーを表わ す位差量及び流動量に基づく該部品の機能モデルを用いており、 この機能モデル の作成を第 1の手順として、 該機能モデルから定常状態における定常機能モデル へ変換して定常内部特性値を同定する第 2の手順と、 該定常内部特性値を用いて 該機能モデルの過渡状態における過渡内部特性値を同定する第 3の手順とを備え たことを特徴としている (請求の範囲 1 )。
このようにして本発明の特性値同定方法では、 位差量と流動量というエネルギ 一則で部品の機能モデルを作成し、 その内部特性値を定常同定してから過渡同定 したので、 全ての部品の特性値を正確に同定でき、 統合した製品のモデル化を可 能にしている。
上記の第 2の手順は、 該定常機能モデルから少なく とも 1つの定常試験モデル の内部特性値を求める第 1 のステップと、 該定常試験モデルに対応した試験を行 つて定常試験データを収集する第 2のステップと、 該定常試験データに基づいて 該内部特性値の定常内部特性値を同定する第 3のステップとで構成することがで きる (請求の範囲 2 )。
上記の第 1のステップでは、 該内部特性値を、 該機能モデルの該定常状態にお ける支配方程式から求めてもよい (請求の範囲 3 )。
該また、 上記の第 3のステップでは、 該支配方程式を回帰式に変換し、 該回帰 式の回帰係数から該定常内部特性値を求めてもよく (請求の範囲 4 )、該定常内部 特性値を既知の要因と未知の要因とに分け、 該未知の要因の定常内部特性値を同
定してもよい (請求の範囲 5 )。
さらに、 上記の第 3の手順は、 該機能モデルの過渡状態における少なく とも 1 つの過渡試験モデルの内部特性値を求める第 1のステップと、 該過渡試験モデル に対応した試験を行い過渡試験データを収集する第 2のステップと、 該過渡試験 モデルの内部特性値に該定常内部特性値を代入して過渡再現データを生成する第 3 のステップと、 該過渡再現データと該過渡試験データとの誤差に基づいて該過 渡再現データを補正し、 以つて過渡内部特性値を同定する第 4のステップとで構 成することができる (請求の範囲 6 )。
上記の第 4のステップでは、 該誤差が許容範囲内にないとき、 該誤差が許容範 囲内になるまで該過渡再現データ内の所定の過渡内部特性値を繰り返し補正し、 該許容範囲内になったとき該過渡内部特性値が同定されたものとすることができ る (請求の範囲 7 )。
また、 上記の第 4のステップでは、 予め各過渡内部特性値を一定の割合で増減 した時の初期値に対する変動偏差を時刻暦感度として計算しておき、 該時刻暦感 度の内、 最大感度を有する過渡内部特性値を該所定の過渡内部特性値と して選択 する (請求の範囲 8 ) 力 \ 該誤差と類似した該時刻暦感度を有する過渡内部特性 値を該所定の過渡内部特性値として選択することができる (請求の範囲 9 )。 なお、 この第 4のステップでは、 該最大感度の時刻が異なる複数の過渡内部特 性値を、 該所定の過渡内部特性値として同時に選択してもよい (請求の範囲 10)。 また、 本発明に係る特性値同定装置は、 該部品の機能モデルの入子手段と、 該 機能モデルの定常状態における少なく とも 1つの定常試験モデル及び過渡状態に おける少なく とも 1つの過渡試験モデルを再現する試験再現手段と、 該定常試験 モデル及び過渡試験モデルにそれぞれ対応した定常試験及び過渡試験を行う該部 品の試験装置と、 該試験装置により該部品の定常試験及び過渡試験を行ったとき の定常試験データ及び過渡試験データを収集する計測器と、 該定常試験データを 用いて該定常試験モデルの定常内部特性値を同定し、 該定常内部特性値を該過渡 試験モデルに挿入して過渡再現データを生成すると共に該過渡再現データと該過 渡試験データとの誤差に基づいて該過渡再現データを補正し、 以つて過渡内部特 性値を同定する演算装置とを備えることができる (請求の範囲 11)。
これにより、 同種類の機能モデルの同定を迅速に行うことが可能となる。 上記の演算装置は、 該誤差が許容範囲内にないとき、 該誤差が許容範囲内にな るまで該過渡再現データ内の所定の過渡内部特性値を繰り返し補正し、 該許容範 囲内になったとき該過渡内部特性値が同定されたものとすることができる (請求 の範囲 12)。
また、 上記の演算装置は、 予め各過渡内部特性値を一定の割合で増減した時の 初期値に対する変動偏差を時刻暦感度として計算しておき、 該時刻暦感度の内、 最大感度を有する過渡内部特性値を該所定の過渡内部特性値として選択する (請 求の範囲 13) か、 該誤差と類似した該時刻暦感度を有する過渡内部特性値を該所 定の過渡内部特性値として選択することができる (請求の範囲 14)。
なお、 該演算装置は、 該最大感度の時刻が異なる複数の過渡内部特性値を、 該 所定の過渡内部特性値として同時に選択してもよい (請求の範囲 15)。
さらに本発明に係る仮想試験装置では、請求の範囲 10に記載の特性値同定装置 で同定した内部特性値を有する機能モデルを仮想原型と して組み込むと共に、 該 特性値同定装置に運転操作条件及び環境条件を与える条件付与手段と、 該運転操 作条件及び環境条件を与えたときに該仮想原型により得られる再現データを観測 する観測手段と、 該観測手段の観測結果を評価する評価手段とを備えたことを特 徴としている (請求の範囲 16)。
すなわち、 本発明による内部特性値の同定は、 実機試験で行なう部品から製品 までの機能 ·性能 ·特性などの評価を、 コンピュータ上で行なう仮想試験と見る ことができ、 従来の設計■試作 ·試験の開発過程で行なわれている実機試験を省 き、 仮想試験による期間短縮と開発費用の削減が可能となる。
上記の仮想試験装置は、 該運転操作条件及び環境条件を、 該仮想原型の対象と なる実機に与えた時の実機試験データを計測する別の計測器と、 該仮想原型の再 同定手段とをさらに備え、 該評価手段が、 該計測器の出力と該観測結果とを比較 し、 比較結果に応じて該再同定手段により該仮想原型を再同定させることができ る (請求の範囲 17)。
そして上記の仮想原型として、 該部品に接続される駆動系及び負荷系の部品に ついて固定仮想原型を組み込み、 該試験装置が、 各固定仮想原型に対応した試験
を行い、 このとき該評価手段が、 該比較結果により該再同定手段による再同定を 行わせることも可能である (請求の範囲 18)。 図面の簡単な説明
図 1は、 本発明に係る特性値同定方法及び装置の基本概念を示したプロック図 である。
図 2は、 モータモデルの基本系をエネルギーの位差量及び流動量と関連付けて 示したブロック図である。
図 3は、 モータの一般的な電気回路図である。
図 4は、 本発明に係る特性値同定方法及び装置に用いるモータの機能モデルと その記号を示した図である。
図 5は、 電池の一般的な電気回路図である。
図 6は、 電池の機能モデル図である。
図 7は、 本発明に係る特性値同定方法及び装置に関してモータの定常機能モデ ルから定常試験モデル群を作成する手順を示したプロック図である。
図 8は、 モータの定常機能モデル図である。
図 9は、 定常負荷試験時のモータモデル図である。
図 10は、 負荷試験時のモータモデル図である。
図 11は、 口ック試験時のモータモデル図である。
図 12は、 誘起電圧試験時のモータモデル図である。
図 13は、 制動試験時のモータモデル図である。
図 14は、本発明に係る特性値同定方法及び装置における定常試験モデル群から 定常機能モデルの同定手順を示したプロック図である。
図 15は、 定常状態のモータ特性を示したグラフ図である。
図 16は、 モータの外観形状をを示した図である。
図 17は、 図 15の縦軸と横軸を逆にしてモータの定常内部特性値を示したダラ フ図である。
図 18は、 モータの定常内部特性値を示したグラフ図である。
図 19は、本発明に係る特性値同定方法及び装置における機能モデルの過渡同定
手順を示したプロック図である。
図 20は、 電動アーム機構の構造図である。
図 21は、 モータの実負荷過渡試験時のモデル図である。
図 22は、 モータ軸を固定したときの過渡試験モデル図である。
図 23は、 モータの定トルク過渡試験モデル図である。
図 24は、 モータの惰性回転試験時のモデル図である。
図 25は、 モータの操作用スィッチ回路図である。
図 26は、 モータの操作スィツチの機能モデル図である。
図 27は、 スイッチング方式の電気回路図である。
図 28は、 スイッチング方式の電気回路の機能モデル図である。
図 29は、 定電流制御の電気回路図である。
図 30は、 定電流制御回路の機能モデル図である。
図 31は、本発明に係る特性値同定方法及び装置において過渡同定を行う前の試 行シミュレーション結果を示したグラフ図である。
図 32は、本発明に係る特性値同定方法及び装置における過渡同定の動作を説明 したフローチャー ト図である。
図 33は、本発明に係る特性値同定方法及び装置における特性値の感度を示した グラフ図である。
図 34は、本発明に係る特性値同定方法及び装置における電流偏差と特性値時刻 暦感度との関係を示したグラフ図である。
図 35は、本発明に係る特性値同定方法及び装置における同定を行った後のシミ ユレーション結果を示したグラフ図である。
図 36は、本発明に係る特性値同定方法及び装置における起動と停止のシミュレ ーション結果を示したグラフ図である。
図 37は、本発明に係る特性値同定方法及び装置における正逆転'制動のシミュ レーション結果を示したグラフ図である。
図 38は、本発明に係る特性値同定装置をモータを例に採って説明したブロック 図である。
図 39は、 製品開発とモデルとの関係をを示したプロック図である。
図 40は、 本発明に係る仮想試験の概念を示したプロック図である。
図 41は、本発明に係る仮想試験装置を車両に適用したときのモデル図である。 図 42は、 本発明に係る仮想試験装置の実施例を示したプロック図である。 図 43は、本発明に係る仮想試験装置を変速機の実機試験に応用した例を示した ブロック図である。
図 44は、 駆動系 ·変速機 ·負荷系の仮想試験装置を示したモデル図である。 図 45は、本発明に係る仮想試験装置をパワートレインの実機試験に応用した例 を示したブロック図である。
符号の説明
1 モータモデル (入子構造)
2 試験再現モデル
3 被試験モータ
4 駆動回路装置
5 負荷発電機
6 電気負荷
8, 34 計測器
9 演算装置
10 仮想試験モデル
1 1 仮想原型
12 試験規格モデル
13 エンジンモデノレ (モータモデル)
14 車体モデル (発電機モデル)
21 駆動モデル (電池 ·操作モデル)
22 負荷モデル (負荷発電機モデル)
23, 37, 40 観測モデル、 観測系
24 特性値更新モデル
25 モデル組み替え装置
30 仮想試験部
31, 38, 39 運転操作モデル、 操作系
32, 41 環境条件モデル、 環境系
33 実機試験部
35 評価モデル
36 制御系入出力装置
50 被試験変速機
51 被試験パワートレイン (P Z T )
71 駆動系制御装置
72 負荷系制御装置
図中、 同一符号は同一又は相当部分を示す。 発明を実施するための最良の形態
以下に、 図 1に概略的に示した本発明に係るモデル同定方法及び装置の実施例 について説明する。
1 . 定常状態の機能モデル
図 1に示した定常同定手順 2を行なうには、手順 21で示したように定常機能モ デル変換を必要とする。 この定常機能モデル変換は、 以下に述べるように機能モ デルから部品の定常状態を再現する定常機能モデルに変換し、 更に定常機能モデ ルを部品の各定常試験に応じて定常試験モデルに変換する (手順 210) ことが必 要である。
この定常試験モデルは、 定常同定が定常試験データを利用することから、 試験 データを生成する定常試験の条件及び内容に応じた被試験品のモデル化によって、 同定対象の定常機能モデルを実機試験する被試験品と一致させることができる。 この一連のモデル変換の流れを図 7に示す。
1 . 1 機能モデルから定常機能モデルへの変換
モータの定常状態は過渡的な変動がないので、図 4 ( 1)で示すィンダクタンス LM と慣性モーメント JMは定常内部特性値に影響を与えない。 また、 同図の絶縁抵抗 Rcは、 非常に大きな値を持つのでモータ電流 IMに対する影響を無視できる。 以上 の点から同図の LM · JM · Rcを消去した定常状態のモータモデルは、 図 8で示す機
この図 8は、 左側が図 6の電源系の操作スィツチが省略した電池のモデルであ り、右側が定常状態のモータモデルである。 同図から定常状態のモータモデルは、 次の支配方程式で表わすことができる。
定常支配方程式の別の導出法として図 4 ( 1)の機能モデルの支配方程式(3)から, LM · JM■ Rc を消去した定常状態の支配方程式は、 以下の手順で求めることができ る。
①式(3)から、 LM ' JMを零とおいて、 ί:Μと の微分状態量を消去した式は、 次式 のようになる。
②式(9)から、 x
Mと x
Lの内部状態量を消去した式は、 次式のようになる。
……式(10)
ここで、 式(10)の中にある Dは次式とする。
D = DM(RM + RC) + SMMM 2 ……式 (11)
③式(10)から、 絶縁抵抗を R
c=∞にして消去した式は、 次のようになる 式 (12)
機能モデルの支配方程式(3)から導いた定常状態の支配方程式(12)は、図 8の定 常状態の機能モデルから導いた支配方程式(8)と同一である。
従って、 部品の定常状態を再現する定常支配方程式は、 部品の過渡状態を再現 する機能モデルを定常機能モデルに変換して求める方法と、 該機能モデルの支配 方程式から定常支配方程式を導く方法の 2通りがある。 このことは、 導出した定 常支配方程式から逆に定常状態の機能モデルが描けることを示し、 定常機能モデ ルと定常支配方程式の間には可逆性があることを示している。
1 . 2 定常機能モデルから試験モデルへの変換
次に、 定常機能モデルによる実態の定常状態を考察し、 試験用のモデルを検討 する。 定常状態における試験モデルは、 定常機能モデルとその支配方程式から、 被試験品の入出力系に特定条件を与える実態の試験をモデル化するものである。 そして、 この特定条件を被試験品に与えた試験データと支配方程式を関連付けて 定常内部特性値を同定する。
これをモータモデルに与える特定条件と試験の関係は、以下のようになる。 ① 電源を接続した状態でモータに一定のトルクを与えた場合は、 モータに加わる負 荷と定常内部特性値の関係を再現するモデルとなり、 モータ電流 ·角加速度と負 荷トルクの関係が観測できる (定常負荷試験 : 図 9)。
②入力 トルク TMを零にした場合は、 モータを無負荷状態で回転させることに対 応し、 無負荷角速度と無負荷電流が観測できる (無負荷試験 : 図 10)。
③出力角速度 ω Μを零にした場合は、モータの回転を強制的に停止させた口ック 状態または起動瞬間の状態に対応し、 ロック電流とロック トルクが観測できる (モータのロック試験 : 図 1 1)。
④入力電流 ΙΜを零にして入力トルク ΤΜを与えた場合は、モータの発電機作用を 再現するモデルとなり、誘起電圧と角加速度が観測できる (誘起電圧試験:図 12)。
⑤電気系の入出力状態量に抵抗器を接続して一定のトルクを与えた場合は、 モ ータの回生制動力を再現するモデルとなり、 モータ電流 ·角加速度と制動トルク の関係が観測できる (定常制動試験 : 図 13)。
これらの試験モデルは、各特定条件の与え方によってモデルが異なる。 しかし、 実際のモデル化では、 定常機能モデル又は定常負荷試験モデルなどの定常特性と 入力状態量の値を零又は無限大値(再現結果に影響を与えない範囲の大きな値)に して、 等価的に各試験モデルを実現することができる。 尚、 これらの定常試験は
少なく とも 1つは行う必要がある。
以上のことを踏まえて、 図 8の定常機能モデルから特定条件下で行なうモータ の試験モデルは、 以下のようになる。
1 . 2 . 1 モータの定常負荷試験
モータに負荷トルクを与えて性能 ·特性を観測する定常負荷試験は、 図 9で表 わされる。
この図 9は、 図 8の定常機能モデルから入力 トルク T
Mを駆動トルクと して側負 荷で与え、 出力角速度 ω
Μを観測量として表現されている。 従って、 式(8)のモー タの支配方程式は、 次式のように変形される。 式 (13)
この式(13)に電池の支配方程式(4)を互いに代入した、定常負荷試験の支配方程 式は次のようになる。
式 (14)
この式(14)は、 モータの定格負荷試験を再現する支配方程式で、 全ての方程式 が定常状態の状態量を再現する出力状態量となる。
1 . 2 . 2 モータの無負荷試験
モータの無負荷状態は、図 9の定常負荷試験モデルの入力 トルク力 S TH=0 となつ たものである。 同図から入力 トルク TMを消去した無負荷試験モデルは、 図 10で
表わされる。
この図 10のモータの支配方程式は、定常負荷試験の支配方程式(13)から負荷ト ルク TMを除いた次式となる。 式 (15)
この式(15)に電池の支配方程式(4)を互いに代入した無負荷試験の支配方程式 は、 次のようになる。
1 MM(E0-Em)-{RB +RM)T MF
D M n , n Vl MM 5M
D M,
MSM_T
M - E。 + E M
MF
M R, ,
式 (16)
r, MM δΜ
1 M 1+
D, RR
■E MB +
A.
1. 2. 3 モータのロック試験
モータの起動瞬間は角速度 ωΜ=0 となり、 モータの回転を強制的に停止させる モータのロック状態と見なせる。 従って、 モータロックを再現するロック試験の 機能モデルは、 図 8の定常機能モデルの出力角速度 ωΜを零とした図 11で表わす ことができる。 尚、 モータ口ックの回転が停止状態で発生するブラシ電圧降下 ΕΜΒ は、 定電圧降下を発生せず、 単にブラシ抵抗による微小電圧降下となるため無視 し省略されている。
図 11は、 図 8の定常機能モデルから出力角速度 ωΜの関係する各定常内部特性 値を消去し、 入力 トルク ΤΜをロ ック トルクの観測量で表現してある。 図 11 の支 配方程式は、 次のようになる。
[ J 式 (17) この式(17)に電池の支配方程式(4)を代入して統合したロック試験の支配方程 式は、 次のようになる。
1 . 2 . 4 モータの誘起電圧試験
モータにトルクを与えて電機子から誘起される逆起電力 VMと角速度 ω Μを観測 する誘起電圧試験のモデルは、 図 12で表わされる。
この図 12は、 図 8 の定常機能モデルから入力電流 ΙΜの関係する定常内部特性 値が消去され、 出力角速度 ω Μが観測量で表現してある。 図 12の支配方程式は、 次のようになる。
[l] ……式 (19)
リ
1 . 2 . 5 モータの定常制動試験
モータに トルクを与えて電機子から誘起される逆起電力 VMを制動抵抗 RLを介 して逆にモータに返して制動力を与える回生制動の定常モデルは、図 13で表わさ れる。
この図 13は、 図 8の定常機能モデルから電池を消去して制動抵抗 が接続さ れ、 モータの入力 トルク TMが駆動トルクと して与えられたものである。 また、 出 力角速度 ω Μは観測量として表現されている。 図 13のモータの支配方程式は、 次 のようになる。
Ml' ) i
'δ M, D M ω M MB
D M,
-R, [1] 式 (20)
) + ΜΜ_ δΜ
M
D M
M S,
121 MB M 1 MF >
Dk
\KL + KM ) + - 以上の各試験モデルは、 図 9で示す定常負荷試験モデルの特性又は入力状態 に以下の値を設定して、 等価的にモデル化することができる。
①無負荷試験モデルは、 入力 トルクを TM = 0とすることで等価となる。
②ロック試験モデルは、 粘性抵抗係数とブラシ電圧降下をそれぞれ DM = E MB = 0とすることで等価となる。
③誘起電圧試験モデルは、 モータ電流とブラシ電圧降下をそれぞれ IM = 0 E; MB = 0とすることで等価となる。
④制動試験モデルは、 電池の内部起電力を E。= 0と し、 内部抵抗の RBを制動抵 抗 RLにすることで等価モデルにできる。
2 . 定常状態の同定
図 1について述べた定常機能モデルが包含する定常内部特性値の同定手順 2は、 図 14で表わされる。 定常同定手順では、 設計値 ·類似品の特性値 ·特性の計測値 などから事前に定常内部特性値が判るものは既定値として確定することができる (手順 26) ので、 残った未定値についてのみ同定すればよい (手順 27)。
これに適用する解析手法は、 定常試験モデルの支配方程式を正準相関分析また は重回帰分析 (単回帰分析) などの統計モデルに変換して定常試験データから偏 回帰係数を求め、 この偏回帰係数と支配方程式の関係から定常内部特性値を導く (手順 28)。 また多くの要因で形成される定常特性に付いては、 要因分析を行な レ、、 定常内部特性値の形成過程を理論式 · 実験式などでモデル化して定量可能な 要因と困難な要因に分け、 定量化が困難な要因について同定する (手順 29)。
2 . 1 定常同定の試験計画
図 8 に示した定常機能モデルから定常同定の対象となる定常内部特性値は、 MM · RM · DM · δ M · TMF · EMBの 6種類である。 これらの定常内部特性値を求めるには, まず図 8の定常モデルの働きと各定常内部特性値の特徴を明らかにして、 試験法 との関係を明らかにしておく ことが必要である。
2 . 1 . 1 既知または実測可能な定常内部特性値の検討 (手順 26)
まず、 定常機能モデルが包含する定常内部特性値の中で、 既知の特性値及び単 独測定が可能な特性値を明らかにする。 一般の製品や部品の定常状態を支配する 特性値には、 文献などで明らかにされている特性値、 設計値を直接利用できる特 性、 直接計測可能な特性値など、 定常試験を行なわないでも明らかにできるもの が多くある。 従って、 定常同定を行なう際は、 これらの特性値を事前調査または 測定して確定することが大切である。
ここで使用するモータについて考察すると、 ブラシ電圧降下 EMB、 図 8の定常機 能モデルをモデル化する際に省略した絶縁抵抗 Rc、モータの卷線抵抗 RMなどが該 当する。 これらの定常特性は以下のとおりである。
①ブラシ電圧降下 EMBは、 黒鉛系ブラシ電圧降なのでモータ回転中は電流 に 関係なく一定となり、 停止状態では微小な直流抵抗となる。 従って、 モータ回転 中には文献で示されている 0. 7 [V]を適用し、停止状態では無視することができる。
②絶縁抵抗 Rcについては、 結果に影響を与えない数 [Μ Ω ]の値となる。
③モータの卷線抵抗 RMについては、 抵抗計や図 1 1 で示すモータロック状態の モータ電圧と電流から計算で求めることができる。
2 . 1 . 2 定常機能モデルと統計モデル (手順 28)
製品開発の中で多用されている分析手法に重回帰分析と単回帰分析などの多変 量解析がある。 これに適用される重回帰モデルの回帰式は、 次のようになる。
V = b0 + blx +b2x 2■■■•bnx +err 式 (21)
ここでは、 式(21 )で示す重回帰式を複数の未知の定常内部特性値を包含する定 常機能モデルに適用することを検討する。 適用の方法は、 定常支配方程式(8)の従 属変数と独立変数を重回帰式の目的変数 y と説明変数 X l〜xnに対応させて、 定常 試験データから求める。
また、 偏回帰係数 bQ〜bnは、 既知と未知の定常内部特性値を組み合わせたもの となる。 従って、 未知の定常内部特性値は、 この偏回帰係数と定常内部特性値を 関係付けて導くことができる。 式(21)中の e„は、 残差である。 また、 重回帰式 が複数の異なる目的変数を持つ場合は、 これを連立方程式で表わして正準相関分 析を適用する。 当然のことであるが、 複数の異なる試験法で求めた試験データと 回帰モデルの偏回帰係数と定常内部特性値を関係付けることができる。
モータの重回帰分析は、 図 9に示す定常負荷試験のデータから、 次の手順で定 常内部特性値を明らかにすることができる。
まず、 重回帰モデルは, 図 9の定常負荷試験モデルの支配方程式(13)から次の 重回帰式が導ける。
TM = -T^ - ΌΜωΜ + ΜΜΙΜ ……式 (22)
+ Μ ΙΜ ……式 (23)
尚、 式(22)は式(13)の 1行目に対応し、 式(23)は同 2行目に対応している。 こ こで、電池の内部抵抗 RBは非常に小さいので、電池の内部起電力 E。とモータ出力 電圧 Vmは近似的に等しいと見なされるから、式(23)の中の E0は、式(13)の従属変 数の VM (モータの出力電圧) を置き替えたものである。
これらの式のトルク TMは目的変数とし、 モータ電流 IMと角速度 ω Μを説明変数 として表わした回帰式は、 次式のようになる (手順 281)。 尚、 下記の式(24)の上 側の式は 2個の説明変数を持つ重回帰式となり、 下側は説明変数が 1個なので単 回帰式となる。
ΤΜ = ^ + + Β12 ωΜ I 式 (24) また、 定数(切片) 。と B20と偏回帰係数 B„ · B12■ B21は、 次式で表わすことが できる。
B、N = -T M,F
β、 Du
B、 =M M
EN—E MB '式 (25)
B20 =一 DM ■TL
B2, =M + RMDM 式(25)で示す偏回帰係数から各定常内部特性値を導く と以下のようになる (手 順 282)。
まず、 式(25)の上 4行から TMF · DM · ΜΜは、 次式のようにそれぞれの偏回帰係数 が対応する。
—B、 式 (26) 次に、 式(25)の 4行に式(26)を代入して、 δ Μを導く ことができる。
5,,
δΜ = . '式 (27)
( 20 ~ Β\ο)Βη
尚、 この式(27)の中にある電池の誘起電圧 Ε。とブラシ電圧降下 ΕΜΒは、 既知の 定常内部特性値とする。
更に、 式(25)の 5行に式(26)と式(27)を代入して、 次式により RMを導く ことが できる。
12一 "° J
R M, ~ ~ ~ ~ ( ^0 - ΕΜΒ ) 式 (28)
20 _ ^10
ここで述べた事例では、式(8)の支配方程式から回帰分析によって、 全ての定常 内部特性値を求めたが、 実際の定常同定では、 複数の試験法を組み合わせて定常 内部特性値を導く ことが多い。 例えば、 この事例でもモータ定数 ΜΜを導く式(26) の 3行目と、 卷線抵抗 RMを求める式(28)については、 ロック試験モデルの式(17) と試験データからも MMと RMを求めることができる。
2. 1. 3 定常特性の要因分析 (手順 29)
定常機能モデルの定常内部特性値には、 この特性を形成する内部要因を多く含 んでいる。 従って、 各特性値は、 要因分析を行なって構成する要因を明らかにし、
その結果を定式化しておく必要がある。 そして、 その結果を元に既知の要因と未 知の要因に分け、 未知または不明な要因については、 モデル上又は試験データに よって影響度合いを明らかにするための定常同定を行なうことが必要である。 この定常同定法には, 支配要因の変動と定常内部特性値の関係を感度として捉 える感度解析などが有効である。 特に、 定常内部特性値が他の状態量の影響を受 ける非線形性を持つ場合には重要となる。
例えば、 モータ定数について考察すると、 式(1)から P · a · Zは、 モータ構造で 決まる設計定数なので既値となるが、 1極当たりの全磁束 φは、 界磁と電機子間 の空隙に分布するので確定が困難である。 従って、 モータ定数を同定することは、 この磁束 φを実験データで同定することとなる。 同定したモータ定数 MMから求め る 1極当たりの全磁束 φは、 次式となる。 φ = ΜΜ ……式 (29)
また、 簡単な例と してモータの卷線抵抗 RMは、 線の長さ 1 · 断面積 S * 固有抵 抗 p ·温度係数 αによって決まる次の式となり、 温度 tに支配される。 RM + ca) ……式(30)
式(30)から、 1 · S · ρ · ひは構造と材料から決まる設計値となるが温度 tは、 試験環境の温度とモータの自己加熱による温度上昇に支配される。 従って、 同定 を行なうための試験には、 モータ温度が特性値を支配する重要な要因となる。 ま た、 高温や低温環境について検討する際には、 支配方程式(3)及び式(8)以降の定 常支配方程式の RMを式(30)で温度補正する必要がある。
2 . 1 . 4 モータの定常特性
モータの定常内部特性値は、 前に述べた定常負荷試験 (図 9) で測定された結 果を元に、 出力トルク TM[Nm]とモータ電流 IM[A]の関係を表わすトルク一電流特 性と、 角速度 co M[rad/sec]との関係を表わしたトルク一速度特性によって表わさ れる。 まず、 トルク一速度特性は、 式(22)と式(23)のモータ電流 IMを代入した次 の式で表わすことができる。 また、 トルク一電流特性は、 式(23)そのものである。
T 一 M \
1 M ― - (E0 - EMB - Tt Ml- ί-' M^ 卞 " ωΜ 式 (31)
R M
モータのトルク一電流特性と トルク一速度特性がカタ口グ又は技術資料などで 提供される場合は, これらの特性図から定常内部特性値を求めてもよい。 このモ ータ特性を図 15に示す。
同図の 2本の回帰直線間の関係を式(22)が表わしている。 同図は、 X 軸と トル クー角速度特性の交点がモータのロック状態を表わし、 Y 軸との交点が無負荷状 態を表わしている。 従って、 モータ定数 MMと卷線抵抗 RMは、 式(17 )にロ ック状態 のモータ電流 ΙΜ · トルク ΤΜ ·電圧 VMを代入して近似値を求めることができる。 ま た、 この結果を式(22)に代入して無負荷時の粘性抵抗係数 δ Μの近似値が判る。 但 し、 摩擦トルク TMFは無視する。
2 . 2 モータの定常試験と定常同定結果
ここでは、 図 4に示すモータの機能モデルから定常状態の特性値を同定する。 尚、 この同定で使用するモータは、 自動車用電動ァクチエ ータに広く利用されて いる、 他励式小型直流モータで界磁に永久磁石を使用している。
定常同定のための定常試験は、 無負荷試験 · ロ ック試験 · 定常負荷試験につい て行なった。 無負荷試験とロック試験は、 モータの特定条件下における試験と し て、 前者はモータの出力軸を開放して入力 トルク TM = 0の状態と し、 後者は出力 軸を固定して出力角速度 ω Μ = 0の状態で行なった。
また、 定常負荷試験は、 錘の付いた糸を巻きつけたドラムをモータ出力軸に取 りつけて、 錘の質量と ドラム半径から負荷トルクを算出した。 また、 試験条件は、 下記の表 3の中で定常同定の結果と一緒に示してある。
図 16のモータについて行なった定常試験の結果と回帰式を図 17に示す。 尚、 同図は、 図 15に対し X軸と Υ軸が入れ替わつている。
図 17は、 定常状態における出力 トルク TM [Nm]とモータ電流 IM [A]の関係を表わ した トルク—電流特性、 および角速度 w M [rad/sec ]の関係を表わしたトルク一速 度特性の測定値とその回帰式を表わした図である。 同図の X軸上の特性値は前述 の如くモータの無負荷状態(TM = 0)を表わし、 Y軸上のトルク一速度特性との交点 が角速度 ω Μ = 0のモータの口ック状態または起動瞬間を示している。 同図中の各
変数名で示す点は表 1の基本特性と定格特性(点線)を示している。 また、 同図中 の黒丸は測定値を示している。
また、 図 17から求めた起動時と無負荷時の基本性能を表 1に示し、参考データ としてモータメーカが公表わしているカタログ仕様を表 2に示す。
表
特性名 記号 単位 特性値
モータ 無負荷電流 [A] 0.1
無負荷角速度 ΩΜ_0 [rad/sec] 1410.0
起動トルク 1 M_L [Nm] 28.0X 10"3
起動電流 I M—L [A] 4.0
試験電源 内部起電力 EB [V] 12.0
電源内部抵抗 RB [A] 1.0X 10—3
特性名 記号 単位 特性値 条件
定格電流 IM-S [A] 0.57 最大 0.9
定格角速度 wM—s [rad/sec] 1210.0 公差 ±160.0
定格負荷 TM s [Nm] 4.0X 10"3
定格電圧 vM [V] 12.0 図 17の試験データで行なった定常同定の結果を表 3に示す。 特性名 単位 特性値
モータ 粘性抵抗係数 DM [Nm/(rad/sec)] 0.65 X 10— 6
の 動摩擦トルク T MF [Nm] 0.1 X 10- 6
定常特性 巻線抵抗 [Ω] 3.0
ブラシ電圧 ^ E BR [V] 0.7
絶縁抵抗 [ΜΩ] 10.0
モータ定数 [Nm/A] 7.25x10-3
速度係数補正 sM 1.0
試験条件 試験電圧 [V] 12.0
(既知) 内部抵抗 [Ω] 50.0 10"3
周囲温度 [deg] 25.0
表 3は、 これまでの検討した定常同定の手順に従ってまとめた結果である。 同 定した定常内部特性値の内、 EMBは文献から求め規定値と した。 また、 Rcは絶縁抵 抗計の測定結果である。 その他の定常内部特性値 MM · RM · DM · dM · TMFは、 上記の 式(24)〜(27)により重回帰分析と単回帰分析から求めたものである。 また、 電池 の内部抵抗 RBは、 電池の内部抵抗が非常に小さいので電流計測用分流器の抵抗値 を適用した。
尚、 式(24)で 5つの係数 Β^ Β^, Β^ Β^, B21を求めるには 5つの連立方程式が必 要であるが、 ΤΜ, ΙΜ, ω Μは図 17 の特性で得られる値が 5つ以上存在するべク トル である。
次に、このよ うに同定した定常内部特性値をモータの定常状態の式(8)に電池モ デルの式(4)を代入した定常支配方程式を使って、シミュレーショ ンした結果を図 18に示す。
この図 18中の太い実線は角速度 ω Μとモータ電流 ΙΜの定常状態の結果を示し、 細い点線は後で述べる同定前の過渡内部特性値を使つて式(5)で行なったシミュ レーシヨ ン結果である。 同図から定常状態の結果は、 過渡状態が安定する定常域 で一致していることがわかる。
3 . 過渡状態の同定 (手順 32)
上記の表 3に示すモータの定常内部特性値が明らかとなったので、 次に、 図 19 に示す過渡同定手順 32により、モータの過渡機能を^:配する過渡内部特性値とし ての慣性モーメ ン ト JM 'インダクタンス LMをモータ電流 IMの測定値によって同定 する。
同定法と しては、 最初に各過渡内部特性値に概略値を与えてシミュ レーション を行い、 初期値を決め (手順 36)、 次にモータ電流 IMに対する各過渡内部特性値 の時刻暦感度を求め (手順 38)、 その感度を指標にモータ電流 IMの測定値 (手順 35) とシミ ュ レーショ ン値との偏差 (手順 37) が最小となるようにした。
また、 定常同定済みの粘性抵抗係数 δ Mと動摩擦トルク FMFについては、 確認の ため再度過渡同定の中で行なう。 また、 同定する場合には、 モータの電源系と回 転系に接続される操作系と負荷のモデルの組み付け · 取り外し及び入子方式によ る組み替えを行なうことができる。
3 . 1 機能モデルから過渡試験モデルへの変換 (手順 33)
過渡状態における試験モデルは、 定常同定と同じように被試験品の入出力系に 特定条件を与える実態試験を機能モデルとその支配方程式で再現する。 過渡同定 は、 この特定条件を被試験品に与えた試験データと、 試験モデルによるシミュレ —シヨ ン結果とを関連付けて、支配方程式が包含する特性値群を同定する。 また、 過渡同定の試験モデルは、 以下のような方法で駆動または負荷をモデル化して組 み込む。
①駆動用の入出力モデル
駆動用の入出力モデルは、 被試験品を駆動するための電源やトルクなどの駆動 エネルギーを供給するためのモデルである。 このモデルは、 駆動エネルギーの供 給方法を操作する操作系又は制御系を持つ場合がある。 例えば、 モータの電気系 に接続される系がこれに対応し、 電源の電池、 モータの操作スィ ッチ、 制御装置 などがある。 特殊な例では、 前に述べた回生制動の制動抵抗などがある。
②負荷用の入出力モデル
負荷用の入出力モデルは、 被試験品の負荷となる特性や実負荷などエネルギー の蓄積又は消費させるためのモデルである。 このモデルは、 負荷エネルギーの与 え方を操作する操作系又は制御系を持つ場合がある。 モータの回転系又は機械系 では、 剛性(パネこわさ) ·慣性モーメン ト ·粘性抵抗係数などを接続する方法が ある。
尚、 値の大きな特性を接続した場合は、 出力軸の固定と見なすことができる。 また、 定負荷を与える便法としては、 電流やトルクなどを側負荷と して与え、 対 となる電圧や角速度を観測量にする方法がある。 機械負荷の操作には、 クラッチ やブレーキなどモデルを併用して、 負荷の切り替えを行なう。
3 . 1 . 1 モータの実負荷過渡試験モデル (手順 34)
実用状態を再現する過渡試験モデルは、 図 6の電池モデルを図 4のモータモデ ルの電気系に結合し、 更に、 回転系に実際の負荷モデル又は等価負荷モデルを結 合して、 外部から閉鎖された実行用のモデルに変換する。
( 1 ) 電動アーム機構の実負荷モデル
実用負荷の一例と して、 図 20に、 ウォームギヤ一のラック側に動作範囲が Θ
で規制された操作アームを持つ電動アーム機構の負荷モデルを示す。 図 21は、 電池とモータモデルに図 20の電動アーム機構を組み込んだ実行用の 機能モデルを示している。 同図の電動アーム機構は、 スッ トパーの剛性 Kc 、 減 速機の減速比 NG 、 ス トツバの接触半径 Lcを有する。 内部には、 アームの推定回 転角 §Rと内部状態 xcがある。
また、 同図の 6角形の枠で示す条件判定は、 アーム動作範囲を判断してスイツ チ変数 Swcを操作するモデルである。 この機能モデルは、外部負荷としてトルク 1\ の側負荷を持っている。
この電動アーム機構の支配方程式は、 次のようになる。 TL '式 (32)
NC この式(32)は、 上側が図 21の右端に示す電動アーム機構の支配方程式、 下側が アームの推定回転角 を示している。 また、 アームの回転範囲を決めるモデルは 次式となる。 ¾ ¾ 1
ϊί κ≥θ^ then (Swc = \) else{Swc = Q) ……式 (33)
この式(33)は、 アームの推定回転角 が回転範囲 0 max内の時 Swc=0、 回転範囲 外の時 S =1 とする、 条件判定 S¾cの式になっている。
次に、電池とモータを統合した上記の式(5)と電動アーム機構の支配方程式(32) を統合すると次式のようになる。
'式 (34)
この式(34)は、 1〜 3行目が状態方程式、 4行目以降が内部の過渡的な状態量 を観測する出力方程式になっている。 尚、 式中の I。と Y。は、 それぞれ式(6)と(7) で示す等価ァ ドミタンスと電流源である。
( 2 ) モータの軸固定モデル
ここで、 モータの出力軸を固定したモデルは、 次に示す図 22で表わすことがで きる。 このモデルは、 図 21のモータ実負荷過渡試験モデル右側のアーム機構と組 み替えることができる。
図 22は、 図 21の実負荷過渡試験モデルの電動アーム機構のモデルをモータ出 力軸を固定する剛性 Kcに置き換えたモデルである。 同図のモータ トルク TMは、 モ ータの出力軸を固定した状態のロック トルクを再現する。 尚、 この場合の支配方 程式は省略する。
3 . 1 . 1 . 1 モータの定トルク過渡試験モデル
実機試験で行なわれている負荷試験には、 定トルクを負荷として与える定トル ク試験がある。 この試験モデルは、 図 6の電池モデルと図 4のモータモデルを結 合して、 外部から閉鎖された実行用モデルとして変換を行う。 変換した実行用機 能モデルを図 23に示す。
同図は、 電池とモータの結合によって、 モータ電圧 VMと電流 が観測量となる。 また、 モータの入力 トルク TMは、 モデル内部で生成する負荷トルクとなるので側 負荷 TMになり、 出力角速度 ω Μが観測量となる。 尚、 モータの無負荷試験は、 側 負荷 ΤΜ= 0とすれば良い。
図 23で示す実行用機能モデルの実行支配方程式は、 次のようになる。
MM TM + ^MF
JM
ΔΜ ΜΜ RM + ^c RB Y0
式 (35)
LM LM *
1 0 0
0 - RC RB Y0
0 .
この式(35)は、 1〜2行目が状態方程式、 3行〜 5行目が出力方程式である。 尚、 等価ァドミタンス Υ。と電流源 I。は、 前に述べた式(6)と(7)である。
また、式(35)を前に述べた式(5)から導く手順は以下のようになる。まず、式(5)
の慣性モ一メ ント JMとインダクタンス LMを含む 1列と 2列を消去して、 1行と 2 行の従属変数を Mと 'にする。 そして、 式(5)の独立変数の入力 トルク TMを同式 の 1行 3列の側負荷に組み込めばよい。
3 . 1 . 1 . 2 モータの惰性回転試験モデル
モータで測定できるのは、 モータ電圧 VM ·電流 IMと回転系の角速度 ω Μ · トル ク ΤΜである。 その中で特に電気系は簡単に高精度のデータが測定できる特長を持 つが、 図 23で示す機能モデルは、 モータ電圧 VMが電池の起電力 Ε。とほぼ等しく なるので、 同定用のデータと しては利用できない。
しかしながら、 モータ電源を切ったときに発生する誘起電圧 VMは、 惰性回転試 験によって同定用の試験データが測定できる。 この惰性回転試験のモデルを、 図 24に示す。
図 24は、無負荷状態のモータ電源を切った瞬間から停止するまでの惰性回転試 験のモデルである。 尚、 絶縁抵抗 Rcは微小電流なので省略されている。 図 24で 示す惰性回転試験のモータモデルは、 次式となる。
JM
式 (36)
し M し M *
vM 1 0 0
— · - ΔΜ ΜΜ
0 1 0 この式(36)は、 1行目と 2行目が状態方程式、 3行目〜 5行目が出力方程式であ る。 尚、 ここで行なう過渡内部特性値の同定事例には、 図 23の過渡試験モデルを 使用し、 この惰性回転試験のモデルは使用しない。
3 . 1 . 1 . 3 操作系を持つモータの実負荷過渡試験モデル
( 1 ) 操作スィツチ
モータの起動 .停止、 正転 .逆転、 電気ブレーキの基本操作は、 図 25で示すス ィツチ回路で行なうことができる。 図 21 の実負荷過渡試験モデルに、 このスイツ チ回路をモデル化して組み込んだ試験モデルについて検討する。
このモータの操作モデルは、図 21 で示すモータ実負荷過渡試験モデルで電池と モータを接続している電圧 VMと電流 IMとの間に組み込むことができる。この操作
スィ ッチを組み込むことで、 同図の実負荷過渡試験モデルは、 スィ ッチ操作によ つてモータの起動 '停止、 正転 '逆転、 電気ブレーキの運転状態が再現できる。 尚、 このモデルのシミュレーショ ン結果は、 過渡状態の同定後に述べる。
図 25は、電池とモータの間に組み込む操作用スィツチの回路図である。 このス イッチ回路の機能モデルは、 次の図 26 となる。
図 26の中の抵抗 RLは、 電気ブレーキ用の制動抵抗である。 また、 スィッチの 接触抵抗と絶縁抵抗は考慮されていない。
図 26の操作スィッチは、 モータを起動 ·停止する Sws、 正逆回転操作をする Swい 電気ブレーキの要否を選択する SWBで構成されている。 これらを操作する操作信 号は、 スィッチの 0N/0FFを "1" と "0" で表わす。 各スィッチの働きは、 次のよ うになる。
①モータに電源を供給する Swsは、 Sws=lでモータに電力を供給し、 sws = oで供 給を停止する。
②正逆転操作をする SWLは、 SWL = 0で切替スィ ッチ変数 Swl_—。が "1" となり、 図 23の電気回路の電流 IMが矢印方向に流れてモータが正回転し、 S =lで SWL 1が "1" となって逆流し逆回転する。 また 。と は、 同時に "1" または "0" の状態 になることを禁止した切替スィッチ変数である。 機能モデル上は、 この操作によ つて電流側の SWLが出力電流 Isの符号を切り替え、電圧側の SWLが帰って来た入力 電圧 VSを元の符号に戻す。
③電気ブレーキによる制動は、 電源 OFFの Sws = 0を条件にして、 SWB=1で電気 ブレーキを ONにし、 SWB = 0で OFFにする。 電気ブレーキは、 電源が OFFされた時 のモータ空転による誘起起電力を制動抵抗 で消費して制動トルクを発生させ る。 このときの制動トルクは制動抵抗 で決まり、 抵抗値が 0[Ω]のとき最大の 制動トルクを発生する。
図 26から求めた支配方程式は、 次のようになる。
……式 (37)
この式(37)の SWEは、 モータの起動 '停止と電流の流れを正逆方向に切り替え
る電源スィッチ変数で、 次式のように表わされる。 次に、 式(4)と式(37)の電池と操作スィツチの支配方程式の電圧 VBと電流 IBを 互いに代入して統合した電源系の支配方程式は、 次式のようになる。 c WE '式 (39)
この式(39)中の SWAは、 電源の 0N/0FFと電気ブレーキ要否を選択する制動スィ ツチ変数と し、 次式となる。
または 式 (40)
°WA ~ SWS +—- SWB{ 一 i^ws) の式(40)において、 上側の SWE 2は式(38)から正逆回転の切替スィッチ変数項 が (S 。 」) となり、 Sws 2は "0, または " 1' となる とから、 S 2 = ς と して整理した、 下側の式で表わすことができる。
最後に、 式(32)の実負荷過渡試験モデルのモータモデルと式(39)の電源系の電 圧 VMと電流 IMを互いに代入して統合した支配方程式は、 次式で表わされる。
……式 (41)
この式(41)は、 1〜 3行目が状態方程式、 4行目以降が出力方程式となってレ' る。 同式の抽象化された等価ァドミタンス Y0と電流源 I。は、 次式で表わされる。
1
'式 (42)
/0 = Y0£0SWE ……式 (43) 尚、 制御ュニッ トなどに組み込まれる電子回路でモータを操作する応用事例と しては、 図 25のモータの操作用スィ ッチ回路と同様に、 図 21 の実負荷過渡試験 モデルに組み込むことが可能である。
また、 前に述べたスィッチ機構も含めてモータの操作系を入子方式にして組み 替えることができる。 尚、 電子回路は、 高度な回路技術を使用して行う方法もあ るが、 ここではモータを駆動するために必要な最低限の機能についてモデル化し ている。 従って、 半導体の持つ非線形特性と電子回路の過渡応答などは除外して 考える。
( 2 ) スィ ツチング方式
スィ ツチング方式は、 モータ速度に影響を与えない周期で電力の供給する 0N/0FF比を変えて制御する。 スイッチング方式は、 図 26の Swsを周期的に切り替 えることで実現できる。 この方法に近い電子回路図を図 27に示し、その機能モデ ルを図 28に示す。 各図は、 電池を含めたモデルとなっている。
図 27は、 外部から加えた矩形波の信号電圧 ECNTをトランジスタ TRの抵抗 で ベース電流に変換してトランジスタ TRを 0N/0FF動作させる。 その時、 E。と RBは 電池電圧と内部抵抗である。 図中の Drはホイーリングダイオードで、 トランジス タを OFFにしたときに発生するモータ卷線のィンダクタンスが貯えたエネルギー をモータに返す働きと、 インダクタンスが誘起する高電圧から トランジスタを保 護する働きの、 2つがある。 尚、 スイッチング信号発生器の機構モデルについて は割愛する。
図 28 のスイ ッチング操作は、 ONの導通状態を低い抵抗 R。N、 OFFの遮断状態を 高い抵抗 R。FFで表わし、 この両者を切り替える。 また、 ホイーリングダイオード の働きは、 6角枠で示す条件判定 SWDと導通状態の抵抗 RDで表わしてある。 この 両者は、 条件判定 SWEが信号発生器の電圧 ECNTを検出電圧 ETHで判定し、 SWE= 1が導 通抵抗 R。Nを選択、 SWE=0が遮断抵抗 R。FFを選択する。 選択は、 切替えスィッチ変 数 ■ SWE—。で行なう。
また、 インダクタンスの蓄積エネルギは、 その放出時期をインダクタンスの逆 起電力が負になることで判定し、 ホイーリングダィォードの導通抵抗 RDを介して
モータに還元する。 図 26で示す制動抵抗 RLと図 28の抵抗 RDは、一見同じ働きに 見えるが、 前者は正のモータ誘起電圧で働き、 後者はインダクタンスによる負の 逆起電力で働く。 これらの点を考慮したスイ ッチング方式の支配方程式は、 次の ようになる。 式 (44)
尚、 スィツチング信号発生器については除外して考える。
( 3 ) 定電流制御方式
次に、モータ電流又は電圧を連続的に変化させてモータを制御する電子回路は、 以下のようになる。 モータの基本機能は、与えられた電流をトルク係数 χ τによつ て駆動トルクに変換される。 従って、 モータを電子制御する際は、 目標とする電 流を自由に設定し、 これを維持する定電流制御の機能が基本となる。 図 29は、 指 定電流 ICNTの値に比例した出力電流 Isを維持する制御回路の一つである。
この図 29は、三角形の記号が内部に高い増幅率を持つ演算増幅器などを示して いる。 目標となる電流 ICNTは、 抵抗 Rsで電圧に変換して増幅器の +側に入力され ている。 また、 制御される電流 IMは、 電流検出抵抗 REで電圧に変換して増幅器の —側に返すフィードバック制御となっている。 尚、 E0と RBは電池の誘起電圧と内 部抵抗である。
定電流制御について簡単に検討を加えると以下のようになる。
増幅器の +と一入力に加わる電圧は、 図 29からそれぞれ VA— INP1 = RSICNTと VA— INP2 = REIMとなる。 また、 増幅器の増幅率を AMPとすると、 出力電圧 VA 0UTは、 次式と なる。
= VM + REIM
また、 図 29の増幅器は高い増幅率を持つことから、 1/AMP = 0と置いて、 式(45) を整理すると出力電流 IMは次式となり、 式中の RS/RBが電流増幅率を表わす。 IM ^- IC T ……式 (46) 次に、 式(45)の VA_。UTは、 図 29で示す供給電圧 VB以上の電圧を発生できない。
また、 増幅器の出力電圧上限値と電源電圧間には、 オフセッ ト電圧 v。FSの電圧差 が必要である。 この関係は、 次の不等式となる。
VA_our≤VL - VOFS ……式 (47)
この式(47)の出力電圧 VA_。UTは、 出力電流 IMの上限値を規制し定電流制御の限 界を示すものである。 この限界を超えた出力電流 ISLは、 図 29で示す電池誘起電 圧 E。 ·オフセッ ト電圧 E。FSの電圧と、 モータ卷線抵抗 RM ·電流検出抵抗 RE■電池 内部抵抗 RBによる電圧降下の閉回路で決まる。 しカゝし、 定電流制御の機能要素に は、 E。が含まれないので、 機能要素に加えられる供給電圧 VBに置き換える必要が ある。 この点を考慮した電流 ISJま、 次式となる。
T ― . ― ^OFS ,
1SL - '式 (48) この式(48)は、 増幅器の内部回路が消費する電流は非常に少ないので、 これを 無視すると、 電池から供給される電流 ΙΒの近似式となる。
以上から図 29の定電流制御回路は、 式(46)で示す制御された電流 ΙΜと式(48) で示す制御されない電流 ISLを切り替えて供給する機能となる。 これまでの内容 を整理してモデル化した定電流制御の機能モデルは、図 30で表わすことができる c まず、 図 30から定電流制御の支配方程式を求めると、 次のようになる。
0 S, WAMP ^WAMP。IcNT VM
I M.
'式 (49)
^■E^WAMP 1 ^WAMP O^CNT この式(49)は、 S SWAMP。が定電流制御の限界を判定する条件判定で切替え るスィツチ要素である。
最後に定電流制御の限界は、式(46)の制御領域内の電流 IBが式(48)の制御限界 を超えた電流 Isl_以下の状態が制御中となり、 これを超えると非制御状態となる。 この条件判定 SWAMPは、 次式となる。 尚、 式中の と ISLは推定状態量である(式は 省略)。
if (IB < ISL) then SWAMP= \ elkse SWAMP= 式(50)
この式(50)は、 SWAMP= 1が条件成立で電池から直接電流を供給、 SWAMP = 0が条件 不成立で定電流制御を行なう。
3 . 2 特性値の初期値を決定
これまで明らかにされていない特性は、 モータ内部の過渡的な特性値が中心で ある。 ここでは、 モータ機能と機能モデルの関係を理解する意味で、 下記の表 4 で示す設計値または類似部品から求めた初期特性値を与えて無負荷状態のモータ にステップ状の電圧を加え、 順次特性値を試行的に更新しながら特性値の初期化 を行なう。 当然ここで行った手順と方法は、 コンピュータ上でシミュレーショ ン することが可能である。
表 4
特性名 記号 単位 特性値
慣性モーメント JM [Nm/(rad/sec2)] 0. 4 x 10-6
インダクタンス LM [H ] 3. 0 x 10-3 同定するに当たり、 式(35)に表 4に示す特性を与えて無負荷状態の機能モデル (図 23において TM =0 としたモデルに相当) を初期化した際のシミユレーシヨン 結果を図 31に示す。 尚、 表 4で示す以外の定常内部特性値と試験条件は、 前に述 ベた表 3で示す定常状態の同定結果を用いる。 また、 側負荷 TMは無負荷なので零 とする。
図 31 ( 1)の上側は、 モータ電流 IM [A] と角速度 ω Μ [rad/sec] を示す。 同図は、 細い点線が測定した電流の生データ、 太い点線が後で述べる測定結果をディジタ ルフィルターで信号処理した電流 IM MEe [A]、 太い実線がシミュレーション結果の 電流 IM_SIM [A]、 細い実線がモータの角速度 co M [rad/sec]を示す。
また、 同図(2)では、 太い実線がシミュレーショ ンで求めた電流 IM SIMからフィ ルターで処理した後の電流 IM_MECを減算した初期値の電流偏差 Δ Ι^ [A] を示し、 細い点線は、 後で述べる慣性モーメント JMを同定したときの電流偏差 A IPSe„ [A] を示す。
同図から、 電流 IMは、 電源 ON直後の立ち上がりに大きな起動電流が流れ、 こ れが時間の経過と共に減少して無負荷電流に安定する。 逆に、 角速度 ω Μは時間経 過と共に上昇し無負荷回転数で安定する。 このモータ電流の変化は、 モータの誘 起電圧 VMがモータ定数 ΜΜを介して角速度 ω Μに支配されていることを示している。
3 . 2 . 1 測定電流のノイズ処理
モータ電流 IMは、 モータと電源の間に 50 [ηι Ω ]の分流抵抗 Rsを接続して測定し た。 この時測定した起動電流が、 図 31 ( 1 )に示す変動の激しい細い点線である。 実測値で示す激しい変動はモータのブラシと整流子によるもので、 起動直後の低 回転域で顕著に表われている。 特に回転の立.ち上がりで発生する激しい変動は、 ブラシに対する整流子の回転角に依存し、 整流子の接触片が少ない小型モータで 顕著に表われる。
この激しい電流変動を除去する為に、 測定データをディジタルフィルターで信 号処理した結果が同図に示す太い点線である。 フィルター特性は、 カッ トオフ周 波数を 100 [Hz]のローパスフィルタ一とした。 尚、 フィルターを通したことで測 定データとの間に約 72 [msec]の位相遅れが発生したので、 同図の信号処理結果は、 位相差だけ立ち上がり点を進ませて一致させた。 これにより、 同図に示す 0 [sec] の前に移動した斜めに上昇する成分は、 無視する。
同定手順は、 このフィルター処理したデータを使って行うことにする。 しかし ながら、 フィルター処理では、 モータ回転の立ち上がりに発生する電流変動が除 き切れていないので、この誤差が同定結果に大きく影響することが予想されるが、 この誤差は前に述べた起動時のブラシと整流子の位置関係に依存する不確定な変 動なので、 この点を考慮して同定を行うこととする。
3 . 2 . 2 特性の時刻暦感度 (手順 38)
式(36)の 5行目の出力方程式の出力状態量から求めたモータ電流 IMには、 同定 の対象となる特性値が全て含まれることが明らかとなった。 そこで同定するに当 たっては、対象となる各特性値とモータ電流との関係を良く把握して仮説を立て、 同定結果の解釈を通して検証することが必要である。 そこで、 モータ電流に対す る各特性の影響は、 以下の仮説とする。
①慣性モーメント JMは角速度変化(角加速度)に比例し角速度の変化が大きい 加速途中に強く影響し、変化が少ない定常状態では影響しないものと考えられる。 ②ィンダクタンス LMはモータ電流の変化に対して比例し、 起動瞬間の電流変動 が大きいときの影響を与え、 電流が安定する定常状態では影響しないものと考え られる。
③粘性抵抗係数 δ Μは角速度に比例し、角速度の上昇と共に内部損失の負荷とし て影響を与え、 定常状態では一定負荷となることが考えられる。
④動摩擦トルク FMFは定数なので状態量変化に影響されない特性と考えられる が、 モータは可能な限り摩擦トルクを削減する構造となっているため影響は少な レ、。
以上の内容から、 各特性値は起動瞬間から定常状態に移るまでの時間的な推移 の過程で、 それぞれ寄与の仕方が異なることが判る。 従って、 モータ電流 IMの変 化に対する各特性値の感度を同定の指標とすれば、 容易に同定可能なことが推察 できる。 尚、 上記③と④は、 定常内部特性値の時刻暦感度を検討するために追加 されたものである。
以上の結果を踏まえて、 各特性値の感度について検討すると以下のようになる
(図 32のフローチヤ一ト参照)。
図 31 (1)のシミュレーション結果は、 各特性値の初期値で行ったことを述べ、 その時の電流偏差 Δ ΙΕΚΚを同図(2)に示した。 これを同定の指標とするには、 特性 値変動が電流偏差 Δ IERRに与える影響を明らかにして、 特性値とモータ電流の関 係が把握できる。 この電流偏差 A IERRは、 電流測定値 IMJ1EG (図 33のステップ S I) とシミュレーショ ン値 IM SIM (同 S2) の偏差として、 次式で表わせる (同 S3)。
この偏差 Δ ΙΕΙί[ίが許容範囲内であれば後述するシミュレーションによる同定結 果の検証を行って過渡同定を完了する (同 S4, S 10)。
式(51 )から図 31 (2)の電流偏差 Δ IERRは、偏差が正側の時は測定値に対しシ レーシヨンの値が高く、 負の時はその逆となる。 また起動瞬間には、 激しい変動 が含まれている。 従って、 この電流偏差 A IERRを特性変化に対するモータ電流 IM の感度として使用するには、 この変動を除去する必要があり、 またこの電流偏差 A IERRによるオフセッ ト量も感度に含まれる。
そこで感度を表わす特性の変動電流偏差 Δ ΙΡ ΕΚΚは、 次の式で表わし、 偏差の変 動分を除去する。
P err 二 ^ P _SIM― Λ M _MEG― ^ ERR |
式 (52)
= Ip SIM一 M SIM I
この式(52)の上側において、 Ip— SIM (同 S5) が過渡内部特性値を変化させたとき のシミュ レーション値を示し、 初期値電流偏差 A IERRが式(51 )による初期値のシ ミュ レーション値 IM_SIMに対する測定値 IM MEGの電流偏差を示している。
この式から特性値の変動電流偏差 Δ ΙΡ_ΕΚΚは、 式(52)の下側で示すように初期値 のシミュレーション値 IM— SIMに対する各特性値変動のシミ ユ レーション値 Ip一 SIMの 偏差を感度と して使うことができる。 但し、 同定精度は、 あくまでも初期値電流 偏差 Δ IERRで評価するので、 この Δ IERRを同定途上で随時妥当な範囲に収めながら 進める必要がある。
3 . 2 . 3 時刻暦感度変化による同定法
まず、 各特性値を + 10 [%]及び一 10 ]変化させたときの電流偏差 Δ ΙΡ ΕΒΒを時刻 暦で求めた結果 (同 S6) を、 図 33 (2)〜(5)に示す。 同図に示す 4つの図は、 各特 性値を変化させたときの時刻暦で見た感度で、 同図(1)は、 同図(2)〜(5)に示す下 側の 4つの図に対して細い点線で示された時刻における各感度を比較した図とな つており、 これらの各時刻暦データは記憶しておく。
また、 同図(2)〜(5)の各電流偏差は、 それぞれ、 Jが慣性モーメント、 Lがイン ダクタンス、 Dが粘性抵抗係数、 Fが動摩擦トルクを指しており、 これらを総称し て上記のとおり "P" (パラメータ) で示している。 但し、 各図の縦軸目盛りは、 下側の図と同じ目盛りになっているので、 4つの図を横並びで比較することはで きない。 また、 実線は表 4 の特性を +10 [%]だけ増加させた結果を示し、 点線は - 10 [«だけ減少させた結果を示す。この計算を同定対象の全特性値について実行す る (同 S7)。
図 33 ( 1)には、 特性を ± 10 [%]変化させた結果が正負対称になっていることから 特性は線形になることが判る。 そして、 慣性モーメン ト JMと粘性抵抗係数 δ Μは モータ電流と正比例の関係となり、 ィンダクタンス LMは正負が反転した比例関係 となる。 また、 前に述べたモータ電流 IMと特性の関係の仮説ともほぼ一致し、 偏 差の変動も除去されている。
次に、 図 33 の特性を変化させたときの電流偏差 Δ ΙΡ— ERRを時刻暦感度として、 同定を行なう。 同定は、 以下の手順で許容できる範囲の電流偏差に収まるように 試行を繰り返す (同 S4)。
まず、 各特性値の同定は、 図 31(2)の初期値電流偏差 Δ IERR から、 0.02〜 0.06[sec]の領域において正の電流偏差が大きいので、 この領域で図 33(1)に示す ように感度が高い同図(2)の慣性モーメント JMを選択し (同 S8) 小さくする (同 S9)。 次に、 図 31(2)に示すように起動瞬間の変動値 DIERRが上側に寄っているの で、 図 33(4)のインダクタンス LMを大きくする。
これらの特性値を同定する順序は、 初期値電流偏差 ΔΙΕΚΚ と各変動電流偏差 Δ
IP—ERRの相関係数を指標にして係数の高いものから順次上記のステップ S2〜S9 を 実行する。 あるいは、 同図(2)及び(4)に示す如く変動が時刻の差で互いに干渉し ていないと思われる場合には、 ステップ S2〜S9で同時に行ってもよレ、。
尚、同図(1)に示すように慣性モーメント JMの特性曲線は図 31 (2)に示す電流偏 差 ΔΙΕΚΚと時刻暦変化の曲線が類似 (相似) しているので、 電流偏差 ΔΙΕΚΒは慣性 モーメント JMの影響を最も受けていると判断し、慣性モーメント JMのみを変化さ せて同定してもよい。
以上の手順の内、 最初に行った慣性モーメント JMの更新値を決定した過程につ いて、 その手順を図示すると図 34のようになる。
図 34(1)は、 図 31(2)に示した電流偏差厶1^を 0.06[sec]まで表わした図であ る。 図中の A点は、少なく したい偏差量 とその位置(0.03[sec]の点)を示してい る。 図 34(2)は、 図 33(1)に示す 0.03[sec]の点における慣性モーメント JMの感度 を示しており、 図 34(1)の A点に感度 0の点(横軸)を合わせた図である。
尚、 両者の縦軸で示す電流偏差は同じ目盛り幅に合わせてある。 同図(1)から除 きたい偏差量 α=0.2[Α]は、 同図(2)から感度が負になることが判る。
従って、 同図(1)の偏差 0の横軸と同図(2)の負の感度を延長した交点 Βから慣 性モーメント JMの補正率 /3 =16.8[%]が求められる。 表 4から更新する慣性モー メント JMは、 0· 4X 10- 6X (1-0.168) =0.3328 X 10-6となる。
この慣性モーメント JMを更新した結果が図 31 (2)の変動電流偏差 ΔΙΡ_™で示さ れる細い点線である。 以上の手順を式で表わすと次式のようになる (同 S9)。 式(53)
この式(53)は、 上側が特性値の補正率 ]3、 下側は更新後の特性値の式になって いる。 式中の変数は、 ひ (t) [A]が初期値電流偏差 A I
ERRの時間 t における電流偏 差量、 え (t) [A/%]も同様に時間 tにおける特性値の感度、 P
M_
NEWが更新後の特性値. P
M_OLDが更新前の特性値である。
尚、 モータ電流と特性値が比例しない非線形特性 (時刻暦感度が非対称となる 時)、 特性値の変更範囲が ± 10[%]を大幅に越える時は、 再度、 式(52)から感度を 求めて同定を繰り返す必要がある。
3 . 3 過渡同定とシミュレーショ ンの結果 (S10)
( 1 ) 同定結果とそのシミ ュレーショ ン
以上の過渡同定の手順で行なった各特性値を、 表 5に示す。 同定用の試験デー タは、 定トルク過渡試験の設定トルクを零にした無負荷試験の結果を使用した。 表 5
特性名 単位 特性値
慣性モーメント [Nm/(rad/sec2)] 0.335X 10-6
インダクタンス [H] 4.2 10-3 過渡同定結果を反映させたシミユレーショ ン結果を、 図 35に示す。 シミュ レ一 シヨンは、 図 23で示した定トルク過渡試験モデルの実行支配方程式(35)に、 表 5 の過渡同定結果と表 3の定常同定結果の特性値を与えて行なった。
図 35(1)には、ィンダクタンス LMが考慮されていない結果を細い点線で追加し、 モータ電流の生データが省かれている。 その他は、 図 31 と同じである。 尚、 イン ダクタンス LMを考慮しない場合のシミ ュ レーショ ンは、 LM=10- 12[H]にして影響 を与えない微小な値にして同じ式(35)で行なった。
両者を比較すると、 インダクタンス LMによる影響は、 起動瞬間の急峻に立ち上 がる起動電流をエネルギとして貯え、電流の低下と共に放出していることが判る。 その結果、 細い点線(LM 0)に対し実線(LM〉0)ではモータ電流の立ち上がり と先 頭値が抑えられ、 立ち下がり部分が右側に移動している。 また、 同定結果は、 図 35 (2)の電流偏差 Δ IERRで示すようにほぼ一致しているが、 前に述べたように起動 瞬間の変動については、 そのまま電流偏差として現れている。
( 2) モータの実負荷過渡試験モデルのシミュレーショ ン
次に、 この同定されたモータモデルは、 モータ単品を正確に再現する仮想原型 となるので、 図 21に示した実負荷過渡試験モデルに図 26の操作用機能モデルを 組み込んで実機の運転状態を再現する仮想試験のモデルとすることができる (後 述の図 42参照)。そのシミュレーショ ン結果を示す。シミュレーショ ンは、式(41) に下記の表 6の電動アームの特性値を与えて行なった。
表 6
特性名 記号 単位 特性値
減速比 NG 1/200
動作角度 0S [rad] 1.57
スットパー剛性 Ks [N/m] 7.0 104
ストッパー半径 Ls [m] 0.04 尚、 表 6以外の特性値は、 同定後のモータモデルと同じである。 また、 モータ 操作は、 図 26で示す電源スィ ッチ Sws、 正逆転スィ ッチ SWL、 制動スィ ッチ SWBで 行う。
まず、 モータの起動 '停止のシミュレーション結果は、 以下のようになる。 正逆転スィッチ SWLが 0FF、 制動スィッチ SWBが OFFの状態で、 電源スィッチ Sws を ONにしてモータを起動し 120 [msec]後に 2 [N'm]の負荷を与え、この負荷を与え た状態で 280[msec]後に電源スィツチ Swsを OFFする。そのシミュレーション結果 を図 36に示す。
図 36(1)〜(4)は順に、モータ電流 IM[A]、負荷トルク TL[Nm]及びモータ電圧 VM[V]、 モータ角速度 coM[rad/sec]、 アームの動作角 0R[deg]を示している。 負荷を加え た時点からモータ電流 IMが増加し、 角速度 ωΜが低下する。 この時、 動作角 0Rの 変化はやや遅くなつている。
また、 電源 OFF では、 モータ電流 IMが 0[A]となり、 角速度 ωΜが低下して 310[msec]付近から負荷がモータを駆動し、 逆回転を起こす。 また、 電源 OFF後の モータ電圧 VMには、 OFFの瞬間にィンダクタンス LMがスパイク状の電圧を発生し、 その後はモータの角速度 ωΜによる誘起電圧 Vwが発生し、 モータから発電機に変 わる様子が示されている。
次に、 モータの正転 '逆転 '制動のシミュレーショ ン結果は、 以下のようにな る。
図 37 は、 制動スィツチ SWBの 0FF/0Nによる電気ブレーキの有り と無しで停止 させた例である。 同図は、 正逆転スィッチ SWLが OFFで電源スィッチ Swsを ONに して起動し強制的にスッ トパーで停止させ、 0. 6 [sec ]後に正逆転スィッチ S を ONにして逆転させ、 再び反対側のスッ トパーで強制停止させ、 その後、 1. 4 [ sec] 経過した時点で電源スィッチ Swsを OFF にしてモータを停止させた状態を示して いる。
同図(1)〜(4)は、 順に、 モータ電流 IM [A]、 アームの動作角 0 R [deg]、 モータ角 速度 co M [rad/sec]、 モータ トルク TM [Nm]を示している。 また、 同図の実線は RL = 1 [m Ω ]の制動抵抗による電気ブレーキを掛けた状態を示し、 点線は掛けない状態 を示す。 正回転 · 逆回転共にスッ トパーに衝突時に減衰振動を起こしている。 また、 ス トツバで強制的に停止したときは、 スッ トパーゴムの柔軟構造でモー タの最大トルクを吸収して圧縮されている。 この状態で電源を切ると、 スッ トパ 一のたわみによる圧縮力でアームが押し返される。 電気ブレーキの効果は 1. 4 [sec]後の停止状態で現れ、 実線で示すようにスッ トパ一反力によるモータの 空転を良く吸収していること力 モータ角速度 ω Μとアームの動作角 θ κから判る。
4 . モータ同定装置
これまで述べた機能部品の定常と過渡状態の試験モデルを同定するために必要 な装置について以下に説明する。
製品の中に組み込まれている機能部品は、 その入出力部に機能部品を組み付け て互いに連携させながら働く構造となっている。 図 21に示したように、例えばモ ータの試験には、駆動用の電池と負荷となる電動アームなどが必要である。 また、 モータを制御するには、 図 25、 図 27、 図 29などで示す操作系も必要となる。 このよ うに実機の試験データを使って同定する試験モデルには、 被試験品の駆 動源及び負荷となる機能部品のモデル化を必要とする。 このように他の機能部品 の影響を受ける場合は、 その働きと挙動を被試験品の仕様及び試験規格として標 準化することが可能である。 この標準化された通りに動作し挙動を再現するもの があれば、 各試験法に共通の代替品として利用できる。
試験モデルには、 この駆動源及び負荷の代替品となる機能部品をモデル化して 同定済みモデルとして組み込めば、 被試験品の内部特性値に絞った同定を行なう ことができる。 また、 この試験装置と試験モデルは、 部品仕様が異なる被試験品 群を入子方式で組み替ることもできる。
これらの概念をモータの同定装置に適用した例が、 図 38に示されている。 同図 の同定装置は、モータモデル 1が試験再現モデル 22に対して入子構造になってお り、再現モデル 2は電池や操作モデルなどの駆動モデル 21 と、負荷発電機モデル などの負荷モデル 22 と、 モータモデル 1の状態量を観測する観測モデル 23 と、 該内部特性値を更新する特性更新モデル 24とで構成されている。
また、被試験モータ 3の駆動源となる電池と操作系を駆動回路装置 4が受持ち、 モータ 3 の機械的な負荷を負荷発電機 5 と電気負荷 6 が受持ち、 駆動モデル 21 と負荷モデル 22 としてモデル化され同定済みとなっている。
さらに、 実機試験装置と各モデルとの関係は、前者の駆動モデル 21が駆動系制 御装匱 71を介して駆動回路装置 4を制御し、 後者の負荷モデル 22が負荷系制御 装置 72を介して負荷発電機 5を制御する構造となっている。
そして、 モータ 3の測定値が計測器 8で計測されて演算装置 9へ与えられる。 演算装置 9は観測モデル 23の観測値と計測器 8からの計測を受けて特性更新モデ ノレ 24を更新する。
図 38 に示すモータ駆動モデル 21 力 図 21左側の電池と図 26、 図 28、 図 30 の操作系の回路とを結合したモデルに対応し、 負荷発電機モデル 22が、 図 21右 側のアーム機構や図 23の定トルク発生モデルなどに対応している。
そして、 前者のモデル上で再現する動作 ·振る舞いは、 駆動系制御装置 71によ つて駆動回路装置 4が再現して被試験品のモータ 3に与える。 同様に、 モータ 3 に与える負荷状態は、負荷系制御装置 72によって電気負荷 6を制御し、負荷発電 機 5上に再現している。
従って、 図 4 ( 1)に示すモータ機能モデル 1を再現モデル 2に接続すると、 駆動 系及び負荷系に対応して予め与えられている駆動モデル 21及び負荷モデル 22が 所定の定常試験モデルとなって、 駆動回路装置 4及び電気負荷 6を制御する。
これに伴って、 モータ 3から発生される定常試験データが計測器 8で計測され
ることとなり、 このデータを受けた演算装置 9は定常機能モデルの支配方程式、 すなわち定常内部特性値をモータモデル 1に与える。 これにより定常同定が完了 する。
この後、 再現モデル 2は過渡同定を行うために、駆動モデル 21及び負荷モデル 22を過渡試験モデルに変更する。 これに伴い、 過渡試験が実行されることとなり 過渡試験データが計測器 8から演算装置 9に与えられる。 演算装置 9は観測モデ ノレ 23 から入力している内部特性値に既に演算した定常内部特性値を代入した値 と計測器 8からの計測データとを比較し、 両者の誤差が許容範囲まで小さくなる ように特性更新モデル 24 によりモータモデル 1の内部特性値を上記の如く適宜 更新する。 これにより過渡同定が終了し、 全ての同定作業が完了する。
5 . 仮想試験
部品又は部品で構成された製品の機能 ·性能 ·特性値を再現するモデルは、 そ の実態の試験データで同定し、 内部特性値と再現性が検証されたことで、 実機の 代りに各種評価試験をコンピュータ上で代行する仮想原型(バーチャルプロ トタ イブ)と して、 利用することができる。 ここでは、 この仮想原型を製品開発に応用 する例について述べる。
5 . 1 製品開発とモデル化の関係
製品の開発過程とモデルの育成過程は、 図 39で示す関係で表わされる。
同図は、 企画段階 ·設計段階 ·試作 ·試験段階までの開発過程と、 これに並行 して行なわれるモデル化及び同定の関係を表わしたものである。 同図は、 製品の 各開発過程を並行して行なう同時並行開発(コンカレントェンシ"ニァリンク")の概念が織り込ま れた過程となっている。
これに対し、 モデル化の過程は、 企画段階の抽象的な製品目標のモデル化から 始まり、 これを開発過程に沿って順次モデルの詳細化を進めながら、 モデルによ る企画 ·設計内容の妥当性を検証し、最後に試作品の試験データで同定を行ない、 この同定モデルを利用して各種評価試験を、 コンピュータによるシミュレーショ ンで代行する仮想試験を行なう流れになっている。
( 1 ) 製品開発とモデル化の関係
例えば、 これを車の開発に適用すると以下のような手順となる。
企画段階の抽象的なモデルは、 0〜4 0 0 [m]の加速時間、 定置燃費性能、加速 性能など、 企画された車の目標特性となる車両性能を再現するモデルを、 重量 . 抵抗■動力特性 ·変速比などの特性を組み立てたモデルで、 目標特性の実現可能 性の検証を行なう。
次の製品の部品構成と基礎設計では、 この目標特性を実現するエンジン .変速 機 ·車体などの基本的な機能部品の構成法に沿ってモデルを分解し、 各機能部品 の内部特性値を明らかにしながらモデル化を行ない、 各機能部品に要求される機 能 ·性能の検証と目標特性値の達成可能性を検証する。
同様に、 詳細設計では、 エンジン ' クラッチ ' ブレーキ '変速機 '制御装置な どの詳細設計の内容に従ってモデル化を詳細化し、 トルク変動 .変速ショック . 振動騒音■制御アルゴリズムなどの細部について、 設計内容の妥当性をモデルで 検証する。
以上の過程で作られたモデルは、 企画段階の抽象的なモデルから、 部品構成に 沿つて順次下位モデルに分解され、 製品から部品及びその細部まで階層化した体 系的なモデルとなっている。
また、 これまでの企画 '設計及びモデル化の過程は、 目標特性を実現する実態 の設計図とこれを検証するモデルによって開発が進められるが、 両者共、 あくま でも仮説である。 従って、 この両者は、 設計図を元に作られた試作車などで、 試 験を行ない、 これらのモデルを同定して、 仮説の妥当性を検証しておくことが必 要である。
( 2 ) 製品開発と同定の関係
以上の理由から、図 39の下側に示す、機能部品及び車両試験のデータを元に同 定が行なわれる。 同定とそのために必要な試験は、 前に述べた定常 '過渡状態に 分けて行ない、定常試験が図 9〜図 13、過渡試験が図 21〜30で示すように試験法 に合わせてモデル変換を行い、 その試験データによって試験モデルの同定を行な う。 ここで行なう同定は、 まず機能部品単位に行なった各試験モデルの同定結果 を、 部品構成に沿って統合し、 製品モデルの同定とすることが可能である。
例えば、 図 21の電池 ·モータ ·電動アームの各機能部品が個別にモデル化され、 これを互いに接続したものが電動ァクチユエータの製品であると仮定する。 この
電動ァクチユエータのモデルは、 電池 ' モータ '電動ァ- る階層化されたモデルで表わすことができる。 また、 これを統合した方程式は、 式(34)となることが判る。
従って、 図 21の中央のモータと右端の電動アームを個別に同定して、 同図の特 性値とすれば、 自然に上位階層の電動ァクチユエータを同定したこととなる。 こ のように、 実態の形態に沿って製品の特性値 ·性能を忠実に再現できるモデルを 「仮想原型」 と呼ぶことにする。
この階層化されたモデルの応用法としては、 図 21で電池と電動アームが、既に 同定済みの時は、 電動ァクチユエータモデルを試験モデルに変換し、 同定済みの 内部特性値を既値とし、 モータモデルの未値の内部特性値に絞った部分同定が可 能である。
5 . 2 仮想原型による仮想試験
次に、 このようにして同定された部品モデルは、 各部品が有する機能 ·性能を 再現する部品の仮想原型として確定される。 同様に、 同定済み部品モデルを互い に接続して統合した製品モデルは、 製品を再現する仮想原型と して確定されるこ とを意味する。 また、 これらのモデルは、 前に述べたように試験法に合わせた試 験モデルに変換し、 再現性と実態の試験結果を比較評価して、 両者の差異を検討 しながら同定された結果である。
従って、 ここで同定された製品及び部品の仮想原型は、 試作品などの各種試験 をコンピュータによるシミュレーションで代行して、 その妥当性を評価すること が可能となる。 この仮想原型を利用して、 実態の評価試験をコンピュータ上で行 なうことを、 部品又は製品の 「仮想試験」 と呼び、 図 37〜図 38で得られた同定 結果の妥当性を検証したシミユレーションもその一例である。
( 1 ) 仮想試験モデルの内部構成
仮想試験は、 実態の評価試験と同じ環境条件 ·運転操作などの試験条件、 及び 性能 ·挙動の再現データによる合否判定 ·性能予測 · 異常現象の有無などの評価 基準を定めた試験規格を適用するのが普通である。 これを模式的に表わすと、 図 40のようになる。
同図は、 仮想原型 11 とこれに適用する試験規格群 12をモデル化して組み込ん
だ、 仮想試験用モデル 10の基本的な構成例である。 この中の仮想原型は、 同定済 み機能部品モデルと、 仮想試験に際して設計値及び類似部品の特性値を与える機 能部品モデルの 2種類で構成されている。
この両者の使い分けは、 前者が製品の機能 ·性能を支配する基本機能を有する 部品のモデルとなり、 後者が製品の用途■構造 ·形状などで特性値が異なる多品 種の製品に拡大するためのモデルとなる。 この両者を併せた製品モデルは、 多品 種に渡る製品の評価試験を、 前者の同定済み基本機能のモデルに、 後者の異なる 特性値の派生機能のモデルを組み合わせた、 多様化する製品群の試験評価を仮想 試験で代行できることを示している。
( 2 ) 仮想試験用車両の仮想原型例
例えば、 図 40の車両用仮想原型の簡単なモデルは、 図 41で表わすことができ る。 同図は、 エンジン ·変速機の機能部品をモデル化して、 パワートレイン(P Z T )として統合した機能モデルと、構造などで異なる車の種類を車体としてモデル 化し、 両者を車両として統合した機能モデルを表わした仮想原型の例である。 各 機能部品のモデル間は、 エンジン ·変速機及び変速機 · 車体間が位差量である角 速度 ω θ · vbと流動量である トルク Te · fbで関係付けられている。
各モデル内の特性は、 以下のようになつている。 エンジンの各特性は、 慣性モ 一メン ト Je ·粘性抵抗係数 S e · 内部トルク Teである。 その中の De · Teは、 スロ ッ トル開度 α β ·大気圧 pe ·外気温 teを入力とする回転一 トルク特性を、 部分線 形化した勾配を De、 エンジン回転数が "0" の時の発生トルクを Teとして表わし ている。
変速機の各特性は、 変速比 N ファイナルギヤ一比 Nd '出力軸の剛性 Cpである。 最後の車体は、 タイヤ半径 RT■車体質量 Mb ·走行抵抗 Db ·走行路の勾配 Θである。 この車体特性の RT■ Mb · Dbは、 車体構造などの違いで特性が異なるので、 車の種 類毎に組み替える必要がある。
また、 エンジンと変速機を制御するエンジン制御装置と変速機制御装置の制御 特性値は、 試験データで事前に同定が済まされている。
図 41の仮想原型を使って、車の運転状態と同じ条件で仮想試験を行なうには、 更に次のモデルが必要となる。 まず、 同図の勾配 0 '大気圧 Pe ·外気温度 te な
どには、 車の使用環境条件として与える環境条件モデルが必要である。 さらに、 スロッ トル開度 ae ·変速機の歯車比 Ngなどには、 車の運転操作を条件と して与え る操作モデルが必要である。
最後に、 仮想試験を行なった仮想原型の再現結果を評価するには、 ω 6 · vb ' Te · fbなどを観測する観測モデルが必要である。 これらの条件と評価を行なうための モデルは、図 40で示した試験規格モデルの各評価試験法を元にしてモデル化する c このモデルで行なう仮想試験は、 実機の特性値 ·性能 ·振る舞いを忠実に再現 する P Z Tの機能部品の仮想原型に、 車の種類で異なる車体モデルの特性値を組 み替えて、 各車種に対応させることができる。 そして、 同じ P Z Tが搭載された 各車種毎に行う各種試験は、 この車両モデルの仮想原型を使った仮想試験による 代行が可能となる。
これまでの車の開発では、 多くの車体構造を持つ車両に対して、 多岐に渡る評 価試験を行なって、 商品としての妥当性が検証されている。 これらの膨大な試験 は、 仮想原型の中の車体特性値を組み替えながら、 モデル化された試験規格群を 組み合わせて行なう仮想試験によって、 試作車の削減及び試験に要する開発期間 の短縮を可能と し、 その結果として開発費の低減を図ることができる。
5 . 3 仮想試験装置 (モデル)
これまで述べた実機試験と同定、 及び仮想原型による仮想試験は、 その基本構 成を図 42で示すことができる。
仮想原型の仮想試験では、 実機試験の対象となる被試験品モデルを試験モデル に変換可能なことと、 試験規格が運転操作モデル ·環境条件モデル、 及び仮想原 型の実行結果を観測モデルとしてモデル化できることを、 前に述べた。
この仮想試験で再現した観測データと実機試験の試験データは、 両者を比較評 価して同定することが可能である。 このことは、 仮想試験のモデルと同定のため の試験モデルが共通化可能であることを示している。
すなわち、 この仮想試験装置 (モデル) は、 同定の手法と手順をモデル化して 仮想原型の内部特性値を更新する同定モデル 9 (図 38の演算装置に対応) と、 仮 想試験が再現データの妥当性を検証する評価モデル 35を組み込むことで、実機試 験 · 同定 ·仮想試験に一貫性を持たすことができる。
図 42は、 これらを実機試験データと評価モデル、及び評価モデルの結果を同定 モデルに入力して関係付けられている。 この両者は、 前者が仮想試験の合否判定 結果に問題を生じた場合に、 点線で示すように実機試験を行なって再評価し、 も し、 仮想原型の同定結果に問題があれば後者で再同定が行なえる手順となってい る。
同図に示す仮想試験装置各部の主な内容は、 次のようになる。
①仮想原型 1は図 38のモータモデルに対応するものであり、製品'部品の機能 - 性能 ·特性値を再現するモデルで、 機構 ·構造に関するメカ系とこれを制御する 制御系のモデルで構成される。
②運転操作モデル 31は、仮想原型 1を実機と同じ運転条件で操作するモデルで ある。 例えば、 車のアクセル操作 ·変速操作 ' ブレーキングなどがある。
③環境条件モデル 32は、仮想原型 1を実機の使用環境と同一条件にして、 その 影響を再現させるモデルである。 例えば、 車が市場走行する時の走行路 ·温度 - 湿度 ·気圧などがある。
④観測モデル 23は、 図 38にも示されているとおり、 実機試験で計測する各計 測点のデータをモデル上で再現させるモデルで、 実機で測定困難なデータもモデ ル上で観測可能である。
⑤内部特性更新モデル 24は、 図 38にも示されているとおり、 同定結果を元に 仮想原型の内部特性値を更新するモデルである。
⑥実機試験部 33 は、 従来から行なわれている試験を示し、 その中の計測器 34 が試験データをリアルタイムでコンピュータに取り込む装匱を示している。
以上の動作をまとめると、 仮想原型 1に対してモデル 31および 32からそれぞ れ運転操作条件及び環境条件を与えると、 仮想原型 1はこの時にシミュレーショ ンした結果得られる再現データを観測モデル 23から評価モデル 35へ与える。 評 価モデル 35では、実機試験の代わりにシミュレーション結果の再現データが妥当 であるか否か (製品 · 部品の妥当性) を試験規格で定めてある評価基準と再現デ ータとを比較することにより評価する。
この評価で不合格となつた場合は、 実機試験データと再現データとの偏差が大 きければ、 評価モデル 35が仮想試験部 30に対して運転操作条件及び環境条件を
変更して同定のやり直しを指示する。 これにより図 42の点線で示す如く、 実機試 験部 33に対してモデル 31及び 32から運転操作条件及び環境条件がそれぞれ与え られる。
従って、評価モデル 35は計測器 34を経由して実機試験部 33からの実機試験デ ータと再現データとの偏差が大きければ同定モデル 9に再同定を指示する。 同定 モデル 9は実機試験データを受けて内部特性更新モデル 34により仮想原型 1の内 部特性値を補正するので、 観測モデル 23を介して再び評価モデル 35で評価が行 われる。 この結果、 実機試験データと再現データとの偏差が最小となるように同 定モデル 9は仮想原型 1の内部特性値を更新することになる。
評価が終了したときには、 別の仮想原型 1 中の変形例 (例えば車種による変形 例) についての評価を行う。 特に、 仮想原型の中の制御モデルの内部特性値 (制 御パラメータ) に対して、 この同定を行うことで仮想原型 1を車種別に最適状態 にチューニングすることができる。
5 . 4 仮想試験を応用した変速機の実機試験
被試験品の機能部品を単品で実機試験する場合には、 これを駆動する駆動系と その負荷となる負荷系の機能部品が必要となる。 ここでは、 このような駆動系と 負荷系の機能部品を同定した仮想原型を試験装置に組み込んで、 被試験品の実機 試験を行なう方法について検討する。
この仮想原型を内部に包含した変速機の試験装置例を図 43に示す。
同図は、 エンジンの駆動特性と車両の負荷特性を駆動モータと負荷発電機で再 現して、 変速機単体を実際の使用状態に沿って実機試験を行なうための装置であ る。 この装置は、 車両の走行に必要な性能を駆動源となるエンジンン性能から引 き出し、 変速に関する、 加減速性能 ·変速ショ ックなどの速各種性能について実 機で評価試験を行なうものである。
同図において、変速機を駆動する駆動モータ 4、 その負荷となる負荷発電機 5、 電気負荷 6、 その運転状態を測定する計測器 8 とで試験装置 33が構成されている。 また、 この試験装置 33には、 駆動モータ 4と負荷発電機 5及び変速機 50の仮想 原型 1 1が接続されており、 これで車両の運転状態を再現し、 その結果を駆動モー タ 4 と負荷発電機 5で忠実に再現させる駆動系制御装置 71 と負荷系制御装置 72
を備えている。
これらの制御装置 71、 72は、駆動モータ 4によってエンジンの駆動トルクを変 速機 50に与え、 車体が変速機 50に与える負荷トルクを負荷発電機 5と電気負荷 6で再現している。 これらの駆動モータ 4 と負荷発電機 5のモデルは、 共に同定 済みの仮想原型 1 1で、 エンジンと車体の機能 '性能 '挙動を試験装置 33の中で 再現できるようになつている。
これらの駆動モータ 4 ·変速機 50 ·負荷発電機 5をモデル化した仮想原型は、 図 44 で表わされる。 尚、 図 43 の変速機モデル 1 に入力される、 操作系モデル 31 , 38, 39及び環境系モデル 32は、 前に述べた試験規格のモデルで、 前者がドラ ィバーの運転操作条件を入力するモデルを表わし、 後者が変速機の内部特性値に 影響を与える外気温度などの環境条件を入力する。 また、 各観測系モデル 23, 37, 40は、 各仮想原型内部の状態量を観測するモデルである。
図 44の駆動系のモータモデル 13は、 図 6、 図 4、 図 30のモータ ·電池 · 定電 流制御のモデルで構成されている。 尚、モータモデル 13の一部の内部特性値は、 モデルを簡略的に表現するために省略されている。 同様に、 負荷側は、 負荷発電 機モデル 14が図 4、 電気負荷が図 13左側の制動抵抗で構成し、 一部の内部特性 値を省略している。
図 44は、駆動系モータモデル 13と変速機モデル 1を接続している角速度 co e■ 入力トルク Teが駆動系制御装置 71の目標値とし、 同様に、 負荷発電機モデル 14 の速度 vbと駆動力 fbを負荷系制御装置 72の目標値として与えている。 また、 駆 動モータ 4の駆動トルク Teは、 図 30の定電流制御モデルから、 制御電流 ICNTを 操作系で制御して駆動モータの電流を調整することで再現できる。
また、負荷発電機 5の負荷トルクは、 図 13の制動試験のモータモデルから、 操 作系を介して制動抵抗値に変えることで再現できる。 また、 この負荷トルクは、 制動抵抗の代わりに、駆動モータと同じ図 30の定電流制御モデルとその装置を組 み込んでも良い。
また、 図 43に示す試験装置 33には、 変速機 50の試験結果と仮想原型 1 1の再 現結果に差異が生じた場合に、演算装置 9内に設けられた評価モデル(図 42参照) がこれを評価し、 同じく演算装置 9内に設けられた同定モデル (図 42参照) によ
り変速機モデル(仮想原型) 1 の内部特性値を同定して更新する内部特性更新モデ ノレ 24が組み込まれている。
5 . 5 仮想試験を応用したパワー ト レイン (P Z T ) の実機試験例
次に、 図 43に示した実機試験装置において、駆動側のモータ 4とこれに連なる 仮想原型 13及び駆動系制御装置 71を除いて、 エンジンと変速機を一体にした P
Ζ τの実機試験を行なう例について検討する。
この P Z Tと負荷発電機を持つ実機試験装置の例は、 図 45で表わされる。 この例では、 図 41 に示した構造が異なる車体に、 同じ P Z T 51 を搭載して多 品種の車を実機試験し、異なる車体特性値を持つ車両に対する P / T 51の適合性 を検証するものである。
P / T 51の仮想原型 1は、 モータ ·ガソリン機関 ·ディーゼル機関などの原動 機の種類に加えて、 自動変速機 · 手動変速機 ·無段変速機などの変速機が組み合 わされた、 多種類を必要とする。 従って、 これらの各仮想原型 1は、 モデル組替 装置 25によって組み替えるようになつている。
また、 この P Z T 51の仮想原型 1は、 エンジン及び変速機の制御ユニッ トのソ フ トウエアを再現する制御モデルを持ち、 仮想原型 1 のモデルを制御すると同時 に、制御入出力装置 36を介して、 エンジンと変速機の実機が直接制御できるよう になっている。
従って、 実機の P Z T 51 と負荷発電機 5で再現した車体性能の適合性が悪化し た場合には、 内部特性更新装置 24を介して制御モデルの内部特性値を変更し、最 初に、 仮想原型 1の中で対策効果の確認を行ない、 次に、 実機試験で再度評価し て確認できるようになっている。
例えば、 車体重量又は走行抵抗が大きい車両に搭載したエンジンの低速域トル クが不足気味で発進加速力の不足が生じる不具合などの場合には、 加速性能の向 上を図るために、 加速開始時の燃料増量を行なうように、 内部特性更新装置 24 を通して制御モデルの制御特性値を更新する。 そして、 最初に仮想原型によるシ ミュレーシヨ ンによって、 制御量変更の対策効果と、 増量で懸念される燃費ゃ排 ガスなどへの悪影響を仮想試験で確認し、 最後に、 仮想試験装置を使って
51 の実機評価試験を行なう。
この手順を踏むことで、 対策の効果と多くの試験項目について検討する悪影響 の再現試験を、 短時間に仮想原型のシミュレーションで検証し、 この検証結果を 元に、 長時間を要する実機試験項目を少数に絞り込んで効率的な試験運用が可能 となる。
以上説明したように本発明に係る特性値同定方法及び装置によれば、 部品に加 わるエネルギーの強さ及び量を表わす位差量および流動量に基づいて該部品の機 能モデルを作成し、 該機能モデルの定常状態における定常内部特性値を同定し、 この同定した定常内部特性値を用いて該機能モデルの過渡状態における過渡内部 特性値を同定するように構成したので、 エネルギーを規定する位差量及び流動量 という二次元量を支配する全ての物品の機能をモデル化することができる。
さらにこのモデルの内部特性値を定常同定を経て過渡同定しているので、 過渡 状態の干渉を受けない定常同定が可能となり、 これに基づいて過渡同定が行われ るので、簡素化された同定手順で正確な内部特性値が得られるという効果がある。 そして、 これらの結果から、 製品 ·部品の定常状態から過渡状態までを忠実に再 現することができる。
また、 このような特性値同定方法を用いた装置を作ることにより、 同種類の機 能モデルの同定を迅速に行うことが可能となる。
さらに、 このような同定装置によって同定された特性値を有する機能モデルを 仮想原型と して仮想試験装置に組み込んでおき、 運転操作条件や環境条件を与え て該仮想原型から再現データを取得し、 その運転操作条件や環境条件に伴う実機 試験データと再現データとを比較してその比較結果に応じて必要に応じ再同定す るように構成すれば、 設計 ·試作 ·試験の開発過程で行われている実機試験を省 き、 期間の短縮と開発費用の削減が可能となる。